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社説・コラム

『言』 離散家族の絆 守らねば 弁護士 石森雄一郎さん 

原発事故 広域避難者は今

 東日本大震災から3年がたった。東京電力福島第1原発の事故によって故郷を離れた多くの被災者が中国地方にも暮らしている。将来への不安を抱えたままの避難生活。「被曝(ひばく)を避けて暮らす権利」を保障するはずの「子ども・被災者支援法」が機能しない中、私たちにできることは何だろうか。昨年、福島県郡山市から広島市に移り、開業した弁護士石森雄一郎さん(34)に聞いた。(聞き手は論説委員・田原直樹、写真・天畠智則)

 ―3年を迎え、被災者を取り巻く状況をどうみますか。
 先が見えません。福島だけでも13万人以上が県内外に避難しています。原発事故が大きな不安を多くの人に与え、今なお消えない。地元に残った人も、少なからず感じているはずです。

 その不安感は、法的な保護に値するものです。原発事故の損害賠償を求める弁護団の一人として追及したいと思います。

 ―子ども・被災者支援法の基本方針が昨秋決まりましたが。
 不十分と言わざるを得ません。被災者の選択を尊重すると趣旨にあり、住み続けても移住しても、満足できる施策がとられねばならない。でも少なくとも避難した人への施策は手薄です。例えば高速道路の無料化がありますが、車で故郷と行き来するのはきつい。それに北海道や沖縄への避難者には無意味です。

 そもそも支援対象地域は、放射線量を基に設定するはずが、市町村単位で区切ったのはおかしい。基本方針がこれでは、被災者も期待外れでしょう。

 ―問題点が多いですね。
 評価すべき点もあります。事故で拡散した放射性物質の影響を、安全と言い切らず、不明としたことです。1条の目的に、「人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」とある。影響は不明としたのですから、低線量被曝について「これ以上浴びたら危険とは立証されていません」とは言えず、国が支援対象地域を区切れないはずです。

 ―具体的には何を支援法に求めますか。
 まず住まいのサポートです。3年前とりあえず入居したという避難者が多いのです。避難生活が長引き、子どもの成長につれ手狭になり転居したいのに、賃料の支援が受けられなくなるケースがあります。そこは早急に対応する必要があります。

 それと、福島と避難先に別々に暮らす家族が、絆を保ち続けるためにも面会する機会が必要です。費用援助が大切です。

 ―というと。
 例えば、避難した母子と、福島に残って仕事を続ける父親の間で、いさかいが起きるケースが目立ちます。「安全だから福島に戻れ」「いや危険だから戻りたくない」と、対立するのです。中には、生活費を送るのをやめてしまう夫もいます。3年を区切りに、離婚が増えないかと懸念しています。

 ―原発事故がもたらす被害は広範で根が深いですね。
 健康への影響が解明されていない以上、危険か安全か、最終的に個人の生理的、本能的な評価に委ねられます。家族内でも受け止めが違い、溝ができる。いさかいの火種を、東京電力から一方的にまかれたのです。

 ―弁護士としてどう対処していますか。
 とにかく話を聞くことだと考えています。「相手が悪い」となりますが、互いを責め合わないよう語りかけています。影響が不明なものをばらまかれ、不安にされ、家族が分断される。これも原発事故の被害です。

 ―石森さんも広島に避難した妻子と2年間、離れて暮らしたそうですね。
 疲れ果てました。原発事故に伴う家族離散のしんどさは経験者でなければ分からないでしょう。国や東電に賠償請求する際、避難者の声を媒介するのも私の仕事と思っています。

 ―広島県、市など行政や住民に望む支援は。
 家族離散を強いられた被災者の実態を知ってほしいですね。原発リスクが具現化した姿ですから。津波被害や原発事故で広島に避難した人たちが「アスチカ」という会をつくり、情報交換しています。こういう団体を通じ、行政も被災者をより積極的に支援してもらいたい。

 というのも、原発事故がまた起きれば、立地県でなくても汚染されたり、桁違いの避難者を受け入れたりする事態も考えられます。そのとき何が求められるか。被災者団体の支援から、行政が得るノウハウは多いはずです。

いしもり・ゆういちろう
 福島県鏡石町生まれ。中央大法科大学院修了。09年弁護士登録。郡山市内の弁護士事務所に勤務し、いわき市の裁判所で震災に遭う。昨年5月、妻の実家がある広島市に事務所を開設した。原発損害賠償請求を支援する会広島弁護団に所属する。

子ども・被災者支援法
 福島第1原発事故の被災者を支援するため2012年6月に全会一致で成立した。放射線量が一定以上のエリアを支援対象地域に指定し、居住継続、自主避難、避難先からの帰還のいずれも選択できるよう、住宅確保や学習、就業の支援を定めた。子どもや妊婦の医療費減免も明記した。法律運用の基準となる政府の基本方針は、昨秋になって閣議決定されたが、支援対象地域の設定などに批判が出ている。

(2014年3月11日朝刊掲載)

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