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社説・コラム

『潮流』 「未来」を考える原点

■防長本社編集部長 番場真吾

 「温故知新」。高校の恩師の教えを折に触れて思い出す。過去と現在を結ぶ線の延長に将来はあり、過去を知ることは未来を考えること―。歴史を学ぶ大切さを、恩師はこの四字熟語に込めた。

 きょう「3・11」から3年。被災地の復興の遅れを思えば、過去と現在を結ぶ線も、その先にある未来も、まだ見えてこない気がしてならない。しかも福島第1原発はこの瞬間も放射線を出し続ける。事故は決して、昔話ではない。

 ところが、今の暮らしと経済を守るには、このままゼロにはできないと、既存の原発では再稼働に向けた手続きが始まった。宿題の整理すらできないのにせっつかれている。そう感じる人も多いのではないか。

 さらに、国さえ明確に示していない「未来」の選択を地域が迫られているようにも見える。全国で唯一の具体的な新規立地案件である山口県の上関原発計画だ。

 当面の焦点は、予定地の公有水面埋め立て免許の延長問題である。県が中国電力に求めた回答期限の4月が迫る。2月に就任した村岡嗣政知事は「エネルギー政策は国が責任を持って判断するもの」と述べるにとどまっている。

 その国はしかし、原発の新設について明言を避けたまま。安倍晋三首相も「(上関は)現時点では考えてない」と述べている。

 知事は県のトップとして、原点にさかのぼって考えるしかないように思う。過疎高齢化が進み、乏しい地場産業の中で、原発に頼らざるを得なかった地域の「未来」である。

 安全神話はあの日、崩壊した。ひとたび事故が起きれば被害が広範囲に及ぶことがはっきりした。あらためて周辺住民の声を聞かずして計画を進めていくのは、どだい無理だ。

 少なくともそこは、「歴史」が示している。

(2014年3月11日朝刊掲載)

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