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社説・コラム

天風録 「平行線は交わる」

 まど・みちおさんをしのぶ新聞各紙の記事で、晩年のひと言が胸に留まっている。「平行線は交わる」。国々が角突き合った果ての大戦で辛酸をなめた。元陸軍伍長の宿願だったのかもしれない▲「言葉の天才」と、老詩人は子どもに一目置いていた。彼岸で頬を緩ませていることだろう。「平行線少しかたむけ仲直り」。算数川柳の公募で広島市の小学生の句が大賞を受け、本紙地方版に載っていた。思い当たる節は、むしろ大人の側にこそ▲ウクライナ南部のクリミア自治共和国を挟み、欧米諸国とロシアのにらみ合いが、きな臭くなっている。「国際法違反」「いや住民の意思だ」。互いに理屈を持ち出して、後に引く気配はどうにも薄い▲宇宙から見えるという万里の長城、冷戦時代に世界を東西に隔ててきたベルリンの壁…。「平行線」の風景はどれも、ほかならぬ人間の仕業である。生きとし生けるものの世界には、直線そのものがまず見当たらない▲歴史認識という「壁」も、日韓両国の間には横たわる。安倍政権は河野談話を引き継ぐ構えをみせた。かたむけ具合はさて、どれくらい向こうに伝わったのだろうか。「では、こちらも」となればいいのだが。

(2014年3月16日朝刊掲載)

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