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社説・コラム

社説 クリミアの住民投票 平和的解決の道筋探れ

 予想された通りの結果といえよう。ウクライナ南部のクリミア自治共和国で実施された住民投票である。投票所に足を運んだ住民の9割以上がロシアへの編入を支持したという。

 ロシアが実効支配した状況下である。投票の結果をそのまま受け取るわけにはいくまい。

 住民投票を受け、クリミアの議会はウクライナからの独立と、ロシアへの編入要請の決議を採択した。もしロシアが編入に踏み切れば、国際的な緊張をさらに高める事態となろう。

 プーチン大統領には、これ以上、強硬な手段を取ることのないよう自制を求めたい。

 そもそもクリミアは60年前の旧ソ連時代、ロシアからウクライナに帰属が変更された経緯があり、住民の6割がロシア系とされている。歴史的に関係が深く経済力もあるロシアと一緒になりたいという住民感情が、今回の投票にも一定に反映されているのは確かだろう。

 しかし国連憲章は他国の領土の一体性を武力で脅かすことを禁じている。ロシアが軍の部隊を展開させてクリミアを掌握したやり方が、国際法に違反しているのは明らかだ。

 こうした異常事態の中での住民投票を無効とする決議案を、米国が国連安全保障理事会に提出したのは理解できる。だが常任理事国のロシアが拒否権を行使し、否決された。

 プーチン氏は16日、オバマ大統領との電話会談で「住民投票は国際法に完全に合致している」と述べたという。だが実際にクリミアを編入するのか、態度は明らかにしていない。

 このままロシアが編入を強行すれば、主要国(G8)のメンバーが冷戦終結後初めて、領土拡張に手を染めるケースとなる。国際社会の秩序を大きく揺るがす事態になりかねない。

 6月にはロシアのソチでG8首脳会議の開催が予定されるが、欧米各国はボイコットを検討している。ロシアが姿勢を変えなければ、G8からの除名もあり得るだろう。

 ウクライナからそれほど離れていない地中海では現在、米国とロシアがそれぞれ空母を展開する状況となっている。両国の交渉は続いており、すぐに軍事衝突につながる可能性は低い。

 それでもささいなきっかけで衝突が起きることも完全に否定はできない。何としてもそうした事態を避けるため、関係各国で平和的な解決の道筋を探る必要がある。

 欧米側は妥協案としてクリミアの自治権拡大などを検討しているとされている。ロシアに編入を思いとどまらせるには、何より国際社会が一致して行動することが求められよう。

 米国は軍事交流の全面的中断や、貿易と投資に関する2カ国協議の中止に加え、ロシア当局者の渡航禁止や在米資産の凍結を柱に制裁を強化する構えだ。欧州連合(EU)も同様の制裁に踏み切る。

 ただ経済制裁に限界があるのも事実だろう。ロシアに翻意を促す粘り強い外交努力こそが欠かせない。

 岸田文雄外相はきのう、対ロ制裁について慎重な姿勢を崩さなかった。日本政府にはロシアに姿勢を転換するよう強く働き掛けてほしい。安倍晋三首相がプーチン氏と首脳会談を重ねた関係を生かすべきだ。

(2014年3月18日朝刊掲載)

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