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社説・コラム

社説 クリミア危機 急がれるロシア包囲網

 もはやロシアは一線を越えたと言わざるを得ない。プーチン大統領がウクライナ南部クリミア半島の編入を宣言し、あっという間に関連条約に調印した。さらにはロシア軍とみられる部隊が現地のウクライナ軍基地を襲撃し、死傷者を出した。

 国際社会に背を向ける暴挙であり、ウクライナ新政権は「戦争段階に移行した」と断じた。まさに危機的状況といえる。

 これ以上の流血は食い止めたい。ロシアは実効支配のため送り込んだ部隊を早急に撤収させ、対話に応じるべきだ。

 それにしてもプーチン氏の強硬姿勢は予想以上である。自国内の高い支持が自信につながっているのだろう。議会などでの手続きも着々と進め、既成事実化する腹づもりに違いない。

 要人の資産凍結など、米国や欧州連合(EU)による制裁は効果が薄かった。軍事衝突は避けたい。経済的なパイプは温存したい。そんな思惑がロシア側に見透かされた感もある。

 しかし軍事力を使い、外国の領土をわがものにすると宣言した国を許せば、国際秩序は崩壊してしまう。あえていえば、尖閣諸島や南沙諸島の領有をにらむ中国も利することになろう。

 世界は対立と相互不信の時代に逆戻りする分水嶺(れい)にいる。そんな見方も大げさではない。

 とりわけ核軍縮・核不拡散の流れを阻害することは見過ごせない。米ロの対立で核兵器削減交渉が停滞するだけではない。ウクライナの非核化の意義が揺らぎかねないからだ。

 旧ソ連崩壊後、ウクライナに残る核兵器を放棄させる代わりに、その独立と主権を守る覚書を欧米諸国とロシアは交わした。今回の動きは当然それに反するが、ここにきて核兵器を手放すべきでなかったという声がウクライナ側にあると聞く。核抑止力への妄信が非核国で復活するなら、ゆゆしきことだ。

 だからこそ国際社会はロシア包囲網の構築を急ぎ、愚行を続ければ自らの孤立を招くだけだと分からせる必要がある。当面は「G8」の枠組みからの追放も仕方あるまい。

 オバマ米大統領も出席する来週のオランダでの核安全保障サミットが絶好の連携の場となろう。これまで中立的な立場を取ってきた中国も巻き込みたい。

 日本はどうするか。安倍晋三首相はきのうの国会でもロシアを非難したが、これまでの姿勢は欧米以上に及び腰に思える。最初の制裁の中身も、ビザ発行手続き簡略化の協議凍結など影響が明らかに小さいものだ。

 首脳外交で築いた友好関係を何とか守りたいというのが首相の本音かもしれない。だがそんな段階ではない。ロシアの領土政策自体がウクライナ問題を通じて強硬化し、首相が目指す北方領土問題の早期解決は既に遠のいたという指摘もある。

 業を煮やした欧米は制裁を強化しよう。日本はどこまで踏み込むか。気掛かりなのは政府内の温度差だ。この問題を主導する国家安全保障会議が官邸サイドの意向もあって日ロ関係を重んじるのに対し、外務省は欧米との協調を基本姿勢とする。

 ここで国際社会と足並みが乱れるのは得策ではない。対話のパイプは保ちつつ、大国の増長に歯止めをかける「圧力」が欠かせない。日本のロシア外交は根本から問い直されよう。

(2014年3月20日朝刊掲載)

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