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社説・コラム

『潮流』 続けてくれて、ありがとう

■運動部長・小笠喜徳

 J1広島のイレブンは、先制ゴールを決めた選手を取り囲むように集まった。喜びもそこそこに、芝生の上に寝転ぶと、文字通り、人文字が浮かび上がった。「3・11」。それを背に、福島県いわき市出身の高萩洋次郎選手がこうべを垂れ、手を合わせた。

 東日本大震災から3年のこの日、広島はアジア・チャンピオンズリーグでオーストラリアにいた。「震災を忘れてほしくなかった」と高萩選手。実家は津波の被害を受け、祖母が今も帰らない。

 高校時代を過ごした岩手県大船渡市が大きな被害を受けた小笠原満男選手(鹿島)たちとともに、サッカーを通じた被災地支援を重ねる。人文字は、発信し続けている復興への強い思いの表れだ。

 南半球からの人文字の映像は、瞬く間に世界に広がった。日本はもちろん、欧州や南米のテレビで紹介され、写真や動画はフェイスブック、ツイッターなどで拡散した。「忘れないよ」「一緒に頑張ろう」。世界中から寄せられる書き込みを読んで、スポーツの発信力の強さを実感せずにはいられなかった。

 震災直後を振り返ってみる。開催が危ぶまれた選抜高校野球の開会式で岡山・創志学園高の野山慎介主将は「頑張ろう、日本」と選手宣誓。1カ月遅れの地元開幕戦でプロ野球楽天の嶋基宏選手会長は「見せましょう、東北の底力を」と呼びかけた。

 近くはソチ冬季五輪でフィギュアの羽生結弦選手が「金メダルをきっかけに復興への一歩を」と思いを吐露した。一言一言が胸に染みる。

 あの日、多くの選手がこんな大変な時に競技を続けていいのか、自問したことだろう。諦めるしかなかった人もいれば、悩んだ末に、やり直しを決めた人もいよう。だが、懸命なプレーも、陰ながらの応援も、きっと被災地の力になっている。続けてくれて、ありがとう。

(2014年3月20日朝刊掲載)

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