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社説・コラム

社説 政府予算成立 低調な論戦が続くのか

 2014年度政府予算が、きのう参院本会議で可決された。衆院通過から20日という、戦後3番目のスピード成立である。

 つまりは与党ペースだったといえよう。来週オランダで開かれる核安全保障サミットに安倍晋三首相が出席できるよう与党が国会運営を急がせ、野党は集中審議を条件に応じた格好だ。

 必要な予算なら着実な執行に異論はないが、中身の議論は尽くされたのだろうか。

 消費税増税や法人税収の伸びを見込んだとはいえ、歳出規模は過去最大である。とりわけ、景気浮揚に効果があるという公共工事には手厚い。

 だが、コストの上昇と人手不足の深刻化によって、予算を付けても執行ができないケースが目立つ。せっかく上向いた民間工事にも支障を来しかねない。

 インフラ整備先行の感は否めない。真に復興や防災、あるいは老朽化対策につながるのか。野党は自ら精査し、事業によっては見直しや先送りを迫るべきではなかったか。

 日銀の黒田東彦総裁が就任して1年の節目でもある。大胆な金融緩和は安倍政権の経済政策、アベノミクスの柱の一つだが、その効果に手詰まり感が出ていると言わざるを得ない。

 きのうの参院予算委員会の締めくくり質疑で、安倍首相は法人税の実効税率の引き下げについて「グローバルな競争の中で企業が勝ち抜くことが、雇用を守り成長を続けていくために必要だ」と重ねて意欲を示した。

 だが、金融機関の企業への貸し出しは伸び悩んで巨額のマネーは空回りし、円安で輸出が増えるシナリオも実現にはほど遠い。4月からの消費税増税で個人消費も冷え込むだろう。何が民間活力を引き出すのか、もっと議論されてしかるべきだ。

 増税に加え、介護保険や国民年金の保険料引き上げなど国民生活にはこれから負担を強いることになろう。家計の懐具合も、知らぬ顔では済まない。

 政権にとっては予算審議というハードルをクリアした。安倍首相は先日の参院予算委で「戦後レジームからの脱却」というフレーズを久々に復活させた。

 内閣支持率が高いうちに、懸案を片付けたいところだろう。一つは集団的自衛権行使容認に向けた憲法解釈の見直しである。当初は法整備を想定していたが、私的諮問機関の報告を受け閣議決定で対応する構えだ。

 この流れに関しては自民党内でも慎重論が出ている。連立を重視してきた与党の公明党も、行使容認は認めない基本的立場から危機感を強め、勉強会を始めた。「平和の党」を掲げるだけに、安易な妥協はできまい。

 安倍首相はこうした声に十分耳を傾けるべきだ。私的諮問機関や閣議決定に依拠する政治手法では、立法府軽視のそしりは免れない。

 特定秘密保護法に関しても懸念がある。漏えいを禁じる「特定秘密」に次いで秘匿度が高い「準秘密」について、法制定ではなく管理基準を策定して閣議決定する方針に変えた。「武器輸出三原則」の見直しも、今月中の閣議決定が予想される。

 予算成立には、経済再生と国民生活の安定、被災地復興など、急ぐ理由もあっただろう。だが、立憲主義に関わる案件が拙速であってはならない。低調な論戦が続くようでは困る。

(2014年3月21日朝刊掲載)

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