×

社説・コラム

対論 永田町発 武器輸出三原則の見直し

 政府は武器輸出三原則を全面的に見直し、一定の要件を満たせば輸出を認める新たな原則案を示した。①国際的な平和や安全の維持を妨げることが明らかな場合は輸出しない②輸出を認める場合を限定し、厳格審査③目的外使用や第三国移転について適正管理が確保される場合に限定―との内容で、今月中の閣議決定を目指す。「平和主義」を掲げる戦後日本の安全保障政策の大きな転換となる可能性がある新三原則。その是非や課題について、前衆院外務委員長で自民党の河井克行氏(広島3区)と民主党最高顧問の江田五月氏(参院岡山)に聞いた。

自民党(広島3区) 河井克行前衆院外務委員長

現実に即しルール整理

 ―武器輸出三原則を全面的に見直す必要性は。
 日米同盟の強化につながり、外交・安全保障政策上の利点は大きい。先日、米国ワシントンを訪れ、オバマ政権高官や国会議員たちと会談してきた。集団的自衛権の行使容認の議論も含め、日米同盟の深化を目指す安倍政権の取り組みを高く評価していた。

 先端装備品の国際共同開発が既に世界の潮流となっていることも大きい。取り残されればそれらの調達は困難だ。新三原則で、自衛隊装備の信頼性向上や日本の防衛産業を守ることにつながる。今の三原則の制約下では、必要な防衛装備品を日本が自前で造ることすらできなくなるだろう。防衛装備品の「ガラパゴス化」を進めてはならない。

 ―輸出拡大に歯止めがかからなくなる、との懸念があります。
 これまでの三原則でも、個別案件ごとに例外化するかどうかを議論して輸出を認めてきた経緯がある。今回は武器輸出に関する問題を包括的、総合的に見直し、世界の現実に即してルールをきちんと整理するものだ。重要案件は、国家安全保障会議(NSC)でしっかりと議論し、審査して結果を公表する仕組みもつくられる。透明性は確保できる。

 ―野党からは「性急だ」との批判もあります。
 日本を取り巻く安全保障環境は激変している。中国の国防費の伸びを見てほしい。2014年度予算案は前年度比12・2%増の約13兆4400億円。日本の防衛予算の3倍近くもある。北朝鮮の核・ミサイル開発問題もある。地元で国政報告会を開いた時も、参加者からの不安の声が多い。国民の生命、財産を守ることが政府、国会議員にとって最も大事なことだ。

 ―日本の平和主義は揺らぎませんか。
 日本が戦争しないためにはどうすればいいか。新三原則も集団的自衛権の行使容認も平和主義を守るためのもの。新三原則については国民や近隣諸国に輸出のルールを明確にし、その妥当性についてきちんと説明すれば理解を得られると考えている。(城戸収)

民主党(参院岡山) 江田五月最高顧問

日本製 戦場使用の恐れ

 ―武器輸出三原則の全面見直しのスタンスは。
 新三原則案の文言は、少し検討すればまずいと分かる代物だ。「国際的な平和や安全の維持を妨げることが明らかな場合は輸出しない」というが、そんな条件はどうにでも解釈できる余地がある。日本が造った武器が世界のどこかの戦場で使われる可能性は否定できない。平和憲法を掲げる日本としては避けたい。目指す理想の旗を降ろしてしまうことになる。

 ―民主党も野田政権時代、平和目的の装備品輸出や国際共同開発・生産への参加を可能にする新基準の策定に踏み切りました。
 今回の見直しは、集団的自衛権の行使や河野談話をめぐる議論と同じ流れで捉えるべきだろう。安倍晋三首相の考えの根底には、日本は間違った戦争をし、連合国の占領政策によって民主社会を実現できたという歴史認識の否定があるのではないか。

 武器輸出三原則をめぐって民主党内でもいろいろ議論があったが、少なくとも歴史修正主義ではなかった。その点で安倍政権とは違う。

 ―新三原則だけでなく、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更を、首相は閣議で決める方針です。
 国会には政府が重要な決定をする前に議論を通じて国民合意をつくり上げる機能がある。首相はそれを軽く見ている。「国会はガス抜きの場だから」と言わんばかり。おごりだ。

 ―集団的自衛権の行使容認問題の議論も本格化しています。民主党はどう対応しますか。
 首相が集団的自衛権の行使の例として挙げるケースが全部駄目ではなく、容認できる部分もある。欠けているのは国際社会の合意という視点だ。同盟国との協調ばかりが先に出ていないだろうか。首相が掲げる積極的平和主義もそうだ。

 首相の思いが単純に直結しただけの一連の動きは止めなければならない。来年は戦後70年。戦勝国に戦勝記念の機運が高まり、それによって日本のナショナリズムがあおられるようであれば、日本が国際的に孤立化しかねない。(坂田茂)

武器輸出三原則
 東西冷戦を背景に1967年、佐藤内閣が①共産圏②国連決議で武器輸出が禁じられている国③国際紛争の当事国とその恐れのある国―への武器輸出を認めないと表明。76年に三木内閣が全面禁輸へと拡大した。法制化されていない。中曽根内閣が83年に米国への武器技術供与を認めたのを手始めに、個別案件を例外化する形で禁輸緩和が進んだ。2011年に野田内閣が国際共同開発などをまとめて例外化する基準を導入。安倍内閣は今年3月、「防衛装備移転三原則」との新名称案とともに全面的な見直し案を示した。

(2014年3月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ