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社説・コラム

島根原発1号機40年 安全性は

 中国電力の島根原子力発電所1号機(松江市鹿島町)が29日、運転開始から40年を迎えた。中電は安全対策を施して運転を延長するか、廃炉とするか検討を進めている。長期間の稼働でも安全性は保たれるのか―。核・エネルギー問題情報センター(東京)の舘野淳事務局長(核燃料化学)と、吉川栄和・島根県原子力安全顧問(原子炉工学)に聞いた。

核・エネルギー問題情報センター事務局長 舘野淳氏

構造弱く避難にも課題

 ―島根原発1号機の現状をどうみますか。
 島根1号機は初期の原発の一つで本当に古い。廃炉にすべきだ。原子炉格納容器は「マーク1型」と呼ばれるタイプで、事故を起こした福島第1原発と同じ。容積が非常に小さく、圧力抑制室の構造も弱いと昔から問題点が指摘されている。原子力規制委員会は稼働継続を認めないだろう。事業者も難しいと思っているのではないか。

 さらに島根原発は県庁所在地にあり、シビアアクシデント(過酷事故)の際の避難の課題もある。そもそも立地場所が適していないという理由もある。

 ―中電は炉心と圧力容器を隔てる筒状の炉心隔壁(シュラウド)を取り換えるなど、長期の運転に向けた対策を進めてきました。
 部品を交換すること自体は否定しないが、格納容器を取り換えることはできず原発全体の構成を変えることはできない。新しい部品のつなぎ目が問題なくつながっているかなど、交換に伴う欠点も生じかねない。

 そもそも各電力会社は、シュラウドなどを将来交換するという想定はなかった。各地でひびが入るなどの故障が起き、取り換える必要が出てきたためだ。当時は寿命を延ばすという考えがなかった。

 ―原子炉等規制法に定められた原則40年という運転期間は妥当ですか。
 日本で原発建設が始まった頃、寿命は30年とか40年とか言われていたが、公式には決められたものはなかった。今の「原則40年」というのも、科学的な根拠に基づいた数字ではない。運転延長も根拠がない。

 ―今後、廃炉を選択する原発が増えますか。
 規制委が稼働を認めない限り、廃炉にせざるを得ない。3分の1ほどは廃炉になるのではないか。原発は動かし続けた方が電力会社の経営にとって望ましいから、なし崩し的に寿命を延ばしている。だからといって経済性と安全性をてんびんにかけるようなことはあってはならない。(山本和明)

たての・じゅん
 東京大工学部卒。日本原子力研究所研究員を経て1997~2007年に中央大教授。核・エネルギー問題情報センター事務局長として福島第1原発事故の技術的な分析などに取り組む。77歳。

島根県原子力安全顧問 吉川栄和氏

設備の評価 手法が進歩

 ―1号機の安全性をどう考えますか。
 40年たったから即危険、というわけではない。古い原発に関しては、設備を技術的に評価する手法が2000年代から進歩してきた。米国発のチェック手法だが、現在の原子力規制委員会が定める運転延長の基準にも反映されている。機器の安全性を判断するのに適した指標だと考える。

 ―1号機は福島第1原発と原子炉格納容器が同じタイプで、危険性が高いとの指摘もあります。
 確かに圧力容器の容積が小さく、事故時に冷却水を保有しにくい弱みはある。福島の事故で起きた炉心溶融(メルトダウン)のリスクが高い面は否めない。

 ―原則40年の運転制限をどうみますか。
 米国では60年を運転期間の目安としている。電力の安定供給や二酸化炭素の排出削減、電力会社の安定経営の観点から、メンテナンスを十分にした上で古い原発を維持する発想がある。日本も現在の再生可能エネルギーの技術水準では、原子力が一定程度必要なのは間違いない。古い原発の安全を厳格に保つ評価手法を磨くことが欠かせない。電力会社と規制委が緊張関係を保ちながら「安全なものはそのまま使い、危険なものは取り換える」との基本を徹底することが大事だ。

 ―中電は原子炉の主要部品の一つシュラウドを2000年度に交換しました。
 安全性の肝となる部品ではない。ひび割れなど損傷があれば温水と冷水が混ざる危険はあるが、それよりも冷却水を供給する配管や、原子炉容器の金属そのものの方が重要だと思う。

 ―福島の事故後の安全対策で1号機の安全性は高まりましたか。
 万が一に備えた設備が増え、最も重要な冷却の選択肢は増えた。だが原子炉への注水配管などコアの部分は着工を先送りしている。福島の教訓から生まれた新規制基準を満たし本当に再稼働を目指すなら、膨大な費用がかかるのも事実。中電も現実的に再稼働への壁は相当高いと感じているのではないか。(樋口浩二)

よしかわ・ひでかず
 京都大大学院工学研究科修了。動力炉・核燃料開発事業団(当時)研究員などを経て1996~2006年、同大学院エネルギー科学研究科教授。現在はエネルギー関連のNPO法人代表。91年から島根県原子力安全顧問。71歳。

(2014年3月30日朝刊掲載)

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