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社説・コラム

著者に聞く 「つるにのってフランスへ」 美帆シボさん 異郷への愛 故郷への情

 フランス語圏で被爆の実相を伝えてきた著者。1980年代には「ラ・ペ(平和)」という言葉自体が市民権を得ていなかったという。「反核や平和だなんてソ連の手先か、という雰囲気でした」。核保有国でもあるフランス。小さい子が「原爆ごっこ」をして遊んでいた。 (佐田尾信作)

 だが、冷戦が終わり世紀も変わった。アニメ「つるにのって」を昔見て、論文で取り上げてくれる学生が現れる。2001年には核実験退役軍人の会ができた。「愛国者であるレジスタンス(対独抵抗運動)の老闘士も共鳴してくれました」。核時代のレジスタンスである。

 48歳にして短歌を始めた。異国暮らしが長くなると、「内なる日本語の樹(き)」が枯れていく。焦りは募るが、歌に救われた。


 母国語のひとつ言葉の源をたどりて我は「時」を旅する

 歌を始めると、その時は核や戦争の問題を忘れたいと思っていた。その心境を変えるきっかけは1999年にスイス・ジュネーブで開かれた原爆展。「良い展示をありがとう」と、アラブ語の感想文を記したクルド人難民の少年との出会いだった。

 ジュネーブの原爆展で鶴折れば吾を呼び止める難民の子は

 今大戦後の世界は常に発展途上国が戦場だ。当時、ジュネーブでは難民の急増と、それに反発する極右勢力の台頭が目立っていた。「原爆展は大成功でも私の心は重かった」。小さな出会いを記録に残したいと思った時、筆者には歌があった。

 本書は今住まう国への愛にも満ちている。「『おフランス』の話じゃなくて」と言うように、ポルトガルの文化であるイワシのバーベキューの話があり、危機にひんするミツバチを守ろうとする話がある。

 フランスには3万6千以上のコミューン(市町村)があり、住民はそれを誇る。対して日本は合併が進み、筆者の故郷のお茶の産地も例外ではない。

 一票をパリで投じるその刹那ぬばたまの夜の祖国(くに)を思へり(本の泉社・1680円)

みほ・しぼ
 フランス平和首長会議顧問・歌人。1949年静岡県生まれ。早稲田大卒業。75年渡仏。歌集に「人を恋うロバ」。

(2014年3月30日朝刊掲載)

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