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社説・コラム

ノーベル平和賞受賞者 コスタリカ前大統領 アリアス氏に聞く

ヒロシマ 政治家変える

 紛争が続いていた中米の和平合意を主導し、ノーベル平和賞を受賞したコスタリカのアリアス前大統領は、核兵器廃絶も熱心に訴えてきた。65年前の常設軍隊廃止で知られる同国からヒロシマと世界の核状況はどう見えるか。創価学会の招きで広島市を訪れた機会に聞いた。(金崎由美)

 ―広島でどんな思いを抱いていますか。
 戦争終結に原爆投下が必要だったとの主張がいかに間違っているか。被爆の実態に触れるたびに実感し、同じ思いを持つ人や国との連帯を広げる決意を新たにする。被爆地には、政治家の考えを変える力がある。20年後の地球を安全にできるかは、現在の私たちの行動に懸かっている。そんな思いに駆られる。

 ―国際世論の関心を高める難しさは感じませんか。
 国民が貧困や圧政に苦しみ、子どもは教育を受けられない。世界には生きるのに精いっぱいな人たちがたくさんいる。そんな環境で核兵器の脅威に関心を寄せることは確かに難しい。

 世界中の軍事費のごく一部で、途上国の貧困対策や教育支援を賄える。紛争の芽を摘むことができる。核兵器の問題を考えるには、より大きく戦争や通常兵器の現実と向き合うことも必要でしょう。

 ―通常兵器の規制に取り組んできた経験とも通じますね。
 国連で昨年、武器取引を規制する武器貿易条約(ATT)の採択にこぎ着けました。私自身、力を注いできた。中米では和平合意の実現後も、麻薬組織などに流れていた武器が地域を脅かしていた。

 困難な道でしたが、非政府組織(NGO)の運動は大きかった。国連で影響力を持つ国に働き掛けながら、国際世論の関心を広げていった。

 ―核兵器についても新たな条約を求める声が被爆者やNGOの間にあります。
 破壊力が桁違いで非人道的な核兵器は、規制ではなく禁止のための条約が必要だ。しかし核抑止力という「神話」の打破は簡単でない。核を持った国が簡単に手放すとも思えない。

 核大国である米国の真のリーダーシップが問われる。オバマ大統領は来月訪日する際、何としても広島を訪れ、「核兵器のない世界」への決意を語るべきだ。同じノーベル賞受賞者として強く求めたい。

 ―人口480万人の小国ながら国際社会での存在感を誇るコスタリカから、日本は何を学べますか。
 軍事費を決して増やさないこと。中国の軍拡を考えると難しいとも思えるでしょうが、対立ではなく、身近な「友人」を増やす姿勢こそが国の安全を高める。日本からの核兵器廃絶の訴えも説得力も増すはずだ。

オスカル・アリアス・サンチェス
 40年生まれ。国立コスタリカ大教授、経済企画庁長官などを経て86~90年に大統領。87年にノーベル平和賞。06年から4年間、再び大統領。09年には17人の歴代平和賞受賞者が核兵器廃絶への取り組みを訴えた「ヒロシマ・ナガサキ宣言」に名を連ねた。

(2014年3月31日朝刊掲載)

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