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社説・コラム

社説 温暖化と紛争 世界で危機感共有せよ

 氷が解けて生存が脅かされるホッキョクグマや、海面上昇に悩まされる南太平洋の島国。これまで地球温暖化の象徴として語られてきた事象である。

 きのう国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が横浜市で公表した新たな報告書は、こうした生態系や自然環境への影響にとどまらず、人間の営みに踏み込んでいる。貧困を拡大させて紛争のリスクを増やし、各国の安全保障政策まで左右することを初めて指摘した点が注目されよう。

 温暖化を完全に食い止めるのは難しい、というのが専門家の共通認識になりつつある。人類の未来への危機感を世界が共有するきっかけにしてほしい。

 地球の平均気温は今世紀末に最大で4・8度上昇する―。衝撃的な予測をした昨年の報告書を踏まえ、今回はその影響を具体的に挙げている。海面上昇をはじめ8種類の主要リスクを示すが、とりわけ見過ごせないのが食料の減産である。

 もし気温が2度上がれば熱帯や温帯地域でコメ、小麦、トウモロコシの三大穀物の生産にことごとく悪影響が出ると予測している。さらに品種改良などの適応策には限界がある、としたことも気掛かりだ。

 生きるためには何より欠かせない水資源の不足も、ゆゆしき指摘だろう。ほとんどの乾燥亜熱帯地域では、再生可能な水が著しく減少するという。

 水や食料の不足が飢餓の拡大を招けば、力によって獲得しようとする動きに結び付くのは想像に難くない。これまでも懸念されてきたことだが、国連の報告書で温暖化リスクとして明確化された意味は重い。しかも100カ国以上の政府関係者による作業部会で一言一句を吟味し、全会一致でまとめた結果である。国際社会に対する厳しい警鐘ともなるはずだ。

 過去の戦争や紛争の原因を思い返してみる。植民地に象徴される権益拡大やイデオロギーの違い、民族対立などだろう。冷戦終結後も資源や領土をめぐる大国のせめぎ合いは続き、地域紛争や内戦も絶えない。ここにきてロシアや中国など、軍事力を背景にした独善的な動きが再び目立ち始めている。

 将来の予測とはいえ、新たに温暖化に伴う紛争リスクが加われば世界秩序はどうなるか。

 地球全体の供給量が先細りしていく食料や水の争奪のために際限なき軍拡競争に逆戻りすることも考えられよう。今のような途上国への無償支援なども後回しになり、格差拡大に拍車が掛かるかもしれない。各国の指導者は、まだまだ先の話と高をくくっていいのだろうか。

 温暖化対策の必要性が叫ばれて久しい。だが温室効果ガスの排出量削減をめぐる先進国と新興国・途上国の意見が対立し、前に進まない構図は変わらない。もはや目先の利害ばかりにこだわるなら、地球も人類も守れないと強く意識すべきだ。

 できる限り排出量に歯止めをかけるとともに、どうしても避けられない被害には個別の備えをする。当然、各国の喫緊の課題だろう。加えて今のうちに国際協調と軍縮の流れを揺るぎないものにしておく努力も、温暖化への「適応策」として必要ではなかろうか。平和外交を掲げてきた日本政府の存在感も、そこで問われるはずだ。

(2014年4月1日朝刊掲載)

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