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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 広島修道大法学部教授・大島寛さん

集団的自衛権 米の求め

軍と一体化 なし崩し懸念

 米国では共和党、民主党の政権を問わず、集団的自衛権を行使しない日本の政策を「強力な安全保障体制の構築を阻害するもの」とみてきた。戦後、平和国家の道を歩んできた日本の政策は、軍事主義に走り世界唯一の被爆国となった反省が土台にある。しかし米国が今求めているのは、米軍とともに戦う自衛隊だ。

 1973年、共同通信社に入社。米ニューヨーク支局長、海外部長などを歴任し、2008年から現職。米ワシントン支局長だった99~02年には、リチャード・アーミテージ元国務副長官たち多くの米国要人を取材した。

 自衛隊の行動が憲法で制約された現状への米国のいらだちは、私が取材した相手の言葉からも伝わってきた。「日本にはカネを出すだけではなく、それ以外にもやってほしいことが多い」。これは対日政策を取り仕切ってきた知日派のアーミテージ氏の言葉だ。ジョゼフ・ナイ元国防次官補は、日本が「より対等なパートナー」の役割を果たすには、集団的自衛権の行使が必要だと明言した。

 米国が望んでいるのは、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使。憲法改正までは求めていない。理想は改憲だろうが、それは日本の世論の分断と不安定化を招く難事であることを米国は熟知している。

 だから、解釈の変更によって行使容認を目指す安倍晋三首相の方針は、米国の要請にぴったり合致する。91年の湾岸戦争の時、日本は多国籍軍に130億ドル(当時1兆5千億円)を拠出しながら、国際社会で評価されなかった。その「湾岸トラウマ」が政府を解釈改憲へ走らせている背景もあるのではないか。

  米国は安倍首相に期待している一方、昨年12月の靖国神社参拝などで「危うさ」を感じているとも分析する。

 靖国参拝後に米国が出した「失望している」との声明は、同盟国相手としては極めて異例。米国の懸念は安倍首相の政治を支えるナショナリズムが韓国、中国など近隣アジア諸国の国民感情を刺激し、東アジアの国際関係が不必要に不安定化することだ。

 同じ米国の同盟国である日韓間のいさかい、最重要な経済的パートナー同士である米中の関係が損なわれることはいずれも米国の利益に反する。「もっと、うまくやれよ」という舌打ちが失望表明の本音だ。

 集団的自衛権の行使をめぐり、範囲を限定するとか明確な要件を設けるといった議論もあるが、有事の際、要件に縛られることはないだろう。国民を説得するための材料であって「要件があるから大丈夫」と考えるのは楽観的すぎる。

 「ショー・ザ・フラッグ(旗幟(きし)を鮮明にせよ)」「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(地上軍を派遣せよ)」とのキャッチコピーに象徴される米の圧力を受け、日本はインド洋やイラクに自衛隊を派遣してきた経緯がある。

 集団的自衛権の行使を容認した場合、仮に米国から行使の範囲を超える要請があった時に、断る胆力が日本にあるのか。自衛隊と米軍の一体化がなし崩し的に進むのではないか。その懸念が拭えない。(聞き手は松本恭治)

(2014年4月2日朝刊掲載)

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