×

社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 静岡県立大特任教授・小川和久さん

同盟国間で行使は義務

平和主義に即した形を

 集団的自衛権の行使は同盟国として当然の責任、義務だ。「そもそも論」として、同盟関係とはどういうものかを考えねばならない。同盟関係を結ぶのは、有事に助け合うことが前提条件だ。

 そして集団的自衛権について憲法解釈の変更は必要ないと、私は思う。現実を直視し、日本の平和主義を貫くために、政府見解をいま一度整理するということでいいのではないか。行使容認をめぐる今の議論は、国際的な理解を得られるものではない。

 陸上自衛隊生徒教育隊、同航空学校を修了。週刊誌記者などを経て、1984年に軍事アナリストとして独立した。外交、安全保障、危機管理の分野で政府の政策立案に携わり、第1次安倍政権では、日本版の国家安全保障会議(NSC)構想を議論する、国家安全保障に関する官邸機能強化会議の議員も務めた。

 米国にとって、84カ所の米軍基地を置く日本列島は、戦略的には米本土と同等の位置付けだ。会社に例えるならば、米国の他の同盟国が支店や営業所だとすると、日本は本社並みの扱い。こうした現実があるから、米国の側も、日本との同盟関係が切れる事態を恐れている。

 米国は、昨年12月の安倍晋三首相の靖国神社参拝に強い不快感を示した。これは、日本でナショナリズムが頭をもたげて日米同盟の解消につながることを、つぼみのうちに摘み取っておこうとの狙いだろう。米国から見て、日本は代わりが利かない同盟国。日本人は、それを自覚しないといけない。日本の軍事的な自立や核武装が現実的でない以上、日米同盟をとことん研究し、活用すべきだ。

 私の見解では、日本は現状で既に集団的自衛権を行使している。象徴的なのは広島県内にある米陸軍の秋月弾薬庫(江田島市)川上弾薬庫(東広島市)広弾薬庫(呉市)。この3施設で計11万9千トンの貯蔵能力がある。

 自衛隊が陸海空で保有している弾薬を全部集めても11万6千トンしかない。米国から見て最高レベルの同盟関係を維持しており、これはまさに行使の姿だ。行使というと、一緒にドンパチやることしか想像しないのは、あまりに幼稚で情緒的。行使していることを現実認識し、日本の平和主義に即した集団的自衛権の在り方を探るべきだろう。

 集団的自衛権をめぐる一連の議論は「外交、安全保障、危機管理を苦手とする日本の姿を映し出している」とみる。

 島国の日本は四方を海で守られてきたため、少なくとも戦後は切迫した危機と遭遇したことがなく、外交、安全保障、危機管理についても国内でしか通用しない議論でお茶を濁してきた。これらは国家の存亡、国民の生命、財産に関わるテーマだ。「0点」と言わざるを得ない。

 無防備かどうかに関係なく、有事ではやられる時はやられる。広島への原爆投下は最たる例であり、同じ歴史を繰り返さないためにどうするかが問われる。平和というのは、叫ぶだけでは駄目。自ら実現していく取り組みがないと。広島の悲劇を振り返り、私が至った結論だ。(聞き手は松本恭治)

(2014年4月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ