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オバマ大統領来日 被爆地との間に温度差 原爆・歴史認識示さず

■記者 荒木紀貴、岡田浩平

 核超大国である米国大統領の目標と現実―。就任後初めて来日したオバマ大統領の23時間の滞在を通じ、そのギャップが見えた。「核兵器のない世界」の希求と努力を訴えたものの、被爆地訪問には「できれば名誉なこと」と言うにとどめ、原爆投下の歴史認識も示さなかった。現職の米大統領とヒロシマ、ナガサキとの間には依然、見えないハードルが横たわる。

 「核兵器を減らすため、ロシアと新しい合意を追求している。包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准し発効させる努力も展開している」。14日のアジア政策演説でオバマ氏が具体策を口にすると、拍手がわき上がった。4月のプラハ演説の口調を思わせる高揚感のあるスピーチへの拍手は節目節目で続いた。

 ホールに招かれた長崎市の田上富久市長は「核兵器のない未来を共有しようと言い、行動もしている。一つずつ前進していくと思う」と評価。自民党の中川秀直元幹事長(比例中国)も「核兵器廃絶を日米でしようという強いメッセージがあった」と歓迎した。

 13日の首脳会談。オバマ氏は満面の笑みを浮かべて報道陣の撮影に応じ、鳩山由紀夫首相の説明に何度もうなずきながら聞き入った。共同記者会見でも時折ユーモアを交えて答えた。

 だが、被爆地訪問については「すぐに行く予定はないが、私にとって非常に意義がある」と、あいまいさがにじんだ。「過去2発の原爆が投下された歴史的意義をどうとらえ、現在も正しかったと考えるのか」との質問もあった。しかし、意識的なのか、複数の質問がある中で失念したのか、答えはなかった。

 「国内の保守派への配慮も必要。今の段階では政治家としての欲求をはっきり言えないのではないか」。広島市立大広島平和研究所の初代所長の明石康・元国連事務次長は分析する。原爆投下は正当だったとの見方が根強い米国の世論に加え、議会内に反対がある医療保険改革法案や10%超の失業率に向き合う内政事情があるとみる。

 過去の大統領にはなかった核兵器廃絶への真摯(しんし)な姿勢は伝わってきた。一方で訪問の実現には、被爆地の一層のアピールが欠かせないと痛感した。


ジュニアライター古川さんも取材 


 中国新聞の「ひろしま国 10代がつくる平和新聞」のジュニアライターで高校2年古川聖良さん(16)=広島市中区=が14日、東京都内であったオバマ米大統領の演説を取材した。約100人の記者やカメラマンとともに、超大国のリーダーを間近に見た。

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 記者席から50メートル以上離れていても、演壇ははっきり見える。10時5分すぎ、オバマ大統領が現れた。招待客が大きな拍手で迎える。「ここに来られたことがとても名誉だ」と話し始めると、また拍手。人気の高さを感じた。声は低く、よく響く。テレビで見る通り、力強い話し方は迫力があった。

 約30分間の演説で、大統領は核兵器廃絶の重大さに触れた。それを聞き、うれしかった。ただ被爆地訪問には全く触れなかったのが、ちょっと残念。大統領になって初めて被爆国を訪れたのだから、具体的にどう廃絶していくのかを話してほしかった。

 演説が終わると観客は再び全員が立ち上がり、大きな拍手。大統領は笑顔で応え、ゆっくりとステージから去った。いつの日か広島で、この姿をもう一度見たい。

(2009年11月15日朝刊掲載)


オバマさんへ思い届け


  ■ヒロシマ平和メディアセンター 馬上稔子

 オバマ米大統領が来日した。直前に「今回は広島、長崎を訪問する予定はない」と明言していたので、ではこちらからと14日、東京都内の演説会場を訪れてみた。

 小雨の中、開始2時間半前から会場前は招待客や報道関係者でいっぱい。国会議員や著名人が姿を見せるたびテレビカメラが取り囲む。4月の大統領のプラハ演説は歴史的だったと評価されるだけに、何を発言するのか誰もが期待していた。

 会場に入った「ひろしま国 10代がつくる平和新聞」のジュニアライターも初めは同じ思いだったようだ。しかし、「広島について何も言わなかった」と残念そうな表情で出てきた。あの切れ味のいい肉声を間近に聞いたはずなのに、「思ったより遠かったです」と距離感を表現した。

 ジュニアライターたちは大統領就任前の昨年11月から、オバマ氏を広島に招く取り組みをスタート。読者から335通の手紙を集めて今年7月、ホワイトハウスに届けた。その一通一通の文面に、「広島に来てほしい」との市民の率直な思いがあふれていた。

 原爆投下の責任論や米国内の世論などと、政治や外交上の壁は確かに分厚いだろう。でもオバマさん、手元の手紙を読んでほしい。

(2009年11月29日朝刊掲載)

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