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原爆症基金法が成立 3億円政府拠出 原告全員救済に道

■記者 岡田浩平

 原爆症認定集団訴訟の敗訴原告を救済する基金に国が補助する法律が1日、衆院で可決、成立した。施行は来年4月1日。6年半に及ぶ集団訴訟は、原告側が求めた「全員救済」での終結へ道筋がついた。

 基金法は衆院厚生労働委員会で可決後、本会議に緊急上程。全会一致で可決した。国会運営で与党と対立し審議拒否の続く自民党は欠席した。

 法律は、原告の支援事業に取り組む社団か財団法人に、政府が補助金を支出し基金に充当できるよう規定。事実上、敗訴者への解決金を支払う。基金への民間の寄付も認める。補助金は3億円を見込み、厚労省は2010年度予算での計上へ財務省に追加要求する。付則は政府による認定制度のさらなる検討、見直しも求めている。

 法人の運用や個別の解決金額は日本被団協、全国原告団、弁護団が施行までに詰める。その上で控訴取り下げ、見送りを原告が判断する。原告306人のうち国が認定していない敗訴原告は15人。未認定で一審を待つ人は43人。訴訟の終結は2011年ごろで、基金の対象は最大約30人と見込まれる。

 集団訴訟では原告側が8月まで19連勝。「認定行政見直しへの貢献」などを理由に、敗訴者も含む「全員救済」を国に求めた。政府と8月6日に広島市で交わした確認書で、一審勝訴の原告を国が原爆症に認定▽負ければ基金から解決金を払う―と訴訟終結の枠組みを定めた。これを受け広島第1陣など7件の訴訟が終結。民主、自民、公明3党が今国会での基金法の成立を目指していた。

原爆症認定と集団訴訟
 被爆者援護法に基づき病気と原爆放射線との関連(放射線起因性)、治療の必要性(要医療性)を専門家が審査し厚労相が原爆症と認定。月額約13万7千円の医療特別手当を支給する。集団訴訟の原告が却下された当時の基準では推定被曝(ひばく)線量に年齢などを加味する「原因確率」に依拠していた。認定は被爆者の1%に満たず「被爆の実態を反映していない」と日本被団協が主導し03年4月から17地裁で集団訴訟を提起。2008年4月に国が現行基準に改め、年間の認定件数は前年度の23倍に伸びた。


<解説>原爆症基金法成立 見直し議論を 現行認定制度に限界


■記者 岡田浩平

 原爆症認定集団訴訟の敗訴者救済のための基金法が1日成立した。法廷での争いに一区切りがつき、今後は政権交代をした政府と日本被団協など原告側の協議による、認定制度をはじめとした被爆者援護行政の抜本見直しが焦点になる。

 民主党は従来から自民党より被爆者対策について踏み込んでいた。衆院選マニフェスト(政権公約)では「被爆実態を反映した原爆症認定制度の創設」と明記。今回、基金法付則で政府による制度の検討、見直しを盛り込んだのは、公約を守る意味もあろう。

 認定審査待ちは約8千人。昨年4月からの現行基準でも毎月200人前後の却下処分が出ている。さらに現行の制度での基準緩和には限界がある。原爆症に認定すると、支払う医療特別手当(月額約13万7千円)の額は、どんな病気でも同じ。放射線との関連を厳格には問われない健康管理手当(約3万4千円)との違いも分かりにくくなる。これらは自民党政権が取り組まなかった。訴訟の一括解決を機に、援護行政全体を見渡した政府、被団協の速やかで大胆な議論に期待がかかる。


原爆症救済基金法成立 原告ら歓迎 審査の迅速化望む


■記者 東海右佐衛門直柄、岡田浩平

 原爆症認定集団訴訟の敗訴原告を救済するための基金法が成立した1日、広島や東京の原告、支援者から歓迎の声が上がった。一方で、審査待ちの認定申請が約8千件に上る中、認定制度の見直しや審査迅速化への期待と不安も交錯した。

 「6年かかった訴訟の解決の方向がようやく固まった。感慨深い」。広島原告団副団長の玉本晴英さん(79)は安堵(あんど)した。広島県被団協の坪井直理事長(84)は「原爆被害のむごさが社会に伝わり、国を動かした意味は大きい」、もう一つの同県被団協の金子一士理事長(84)は「国は核兵器廃絶へ向け一層努力してほしい」と求めた。

 広島市の秋葉忠利市長は会見で「在外被爆者など被爆者をめぐる他の問題にも、いい影響が波及してほしい」と期待。長崎市の田上富久市長は「できるだけ早い解決を望んでいたので高く評価したい」とコメントした。

 法案可決後、厚生労働省で原告側が開いた記者会見。全国原告団の山本英典団長(76)は「要求がかない、非常にうれしい」と喜んだ。ただ、昨年4月に改定された審査基準に対しては「『疑わしきは被爆者の利益に』の精神が貫かれているはずだが、そうなっていない」と指摘。「人情のある制度にしてほしい」と訴えた。

 今後の焦点について広島弁護団の二国則昭事務局長は約8千件の審査待ちの解消と、司法が原爆症と判断した事例を踏まえた認定制度の見直しを挙げた。

(2009年12月2日朝刊掲載)

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