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沖縄密約 法廷で認める 元外務省局長「国家のうそ」を証言

 1972年の沖縄返還をめぐり日米両政府が交わしたとされる密約の存否が争われている訴訟の第4回口頭弁論が1日、東京地裁(杉原則彦裁判長)であり、原告側証人として吉野文六・元外務省アメリカ局長(91)が出廷。日本側が従来否定してきた密約の存在を当時の交渉担当者の立場から法廷で初めて認めた。

 元政府高官が公開の法廷でこうした証言をするのは極めて異例。政権が交代し、沖縄返還や米軍の核搭載艦船の寄港黙認などに関する外務省調査にも弾みがつきそうだ。

 次回来年2月16日の弁論で結審の予定。

 吉野氏は証人尋問で、1971年6月の返還協定調印の直前、米軍用地の原状回復補償費400万ドル(当時のレートで約14億円)を「日本が肩代わりで負担する」との密約を交わした、と証言。短波放送中継局「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」国外移設費用1600万ドル(同約57億円)の肩代わりも認めた。

 これらの密約を示す米側公文書への署名については、原状回復補償費関連の文書に残された「BY」のイニシャルを含め「自分が局長室でサインし、事務官がコピーも取ったと思う」と述べた。

 背景事情として「(ベトナム戦争などに伴う)米国の財政悪化があり、『日本に金を出す必要があるのか。沖縄を返還しなくてもいい』という米議会内の声がわれわれにも伝わっていた」と語った。

 密約を認める契機となった米国の公文書公開にも触れ「日本も一定の時間が過ぎた後、誰もが外交文書の内容を研究できるような制度を採用した方がいい」と指摘した。

 吉野氏は1972年12月、原告の一人で元毎日新聞記者西山太吉氏(78)が訴追された外務省機密漏えい事件の公判で検察側証人として密約を否定。だが2006年になってメディアに密約の存在を認め、今回の訴訟で37年ぶりに西山氏と対面した。

劇的な変化 原告の元毎日新聞記者西山太吉氏の話

 国がつい2、3カ月前まで「(密約の文書は)ない」と主張していたことを考えれば、劇的な変化だ。われわれが開示請求の訴訟を起こさなければ変わらなかったが、そこに国を取り巻く政治環境の変化がマッチしたということだろう。情報公開の歴史に画期的な成果が産み落とされつつあると思う。

外務省機密漏えい事件
 沖縄返還協定が調印された1971年6月、毎日新聞記者だった西山太吉氏が、沖縄の米軍用地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりするとの密約に絡む外務省の機密公電のコピーを入手。社会党(当時)の横路孝弘議員が72年、コピーを基に国会で質問した。西山氏は同年4月、コピーを渡した外務省女性職員とともに国家公務員法違反容疑で逮捕され、一審では無罪となったが、二審で執行猶予付きの有罪判決を受け最高裁で確定。2000~2002年、密約を裏付ける米政府公文書が見つかり、返還交渉を担当した吉野文六元外務省局長が密約を認める立場に転じた。

(共同通信配信、2009年12月2日朝刊掲載)

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吉野文六元外務省局長

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