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START1失効 米露 後継条約まで効力維持

 史上初の戦略核削減条約として1991年に米国と当時のソ連が調印した第1次戦略兵器削減条約(START1)が5日、期限切れを迎え失効した。

 これにより米ロの核軍縮条約は、配備済み戦略核弾頭数の上限を2200~1700とした2002年の戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)だけとなった。

 米ロはモスクワ条約より戦略核弾頭の上限を低く設定した後継条約の締結に向け交渉中。オバマ米大統領、メドベージェフ・ロシア大統領は4日の電話会談で、後継条約の締結交渉中はSTART1の効力を維持することで合意、核軍縮の流れに大きな空白は生じない見通しだ。

 ストックホルム国際平和研究所の推計や米国務省によると、今年1月時点での配備済み戦略核弾頭数は米国が2202、ロシアが2787。

 5日失効したSTART1。米国とロシア双方が後継条約締結に意欲を見せながら失効には間に合わず、国益がぶつかり合う核軍縮交渉の難しさを露呈。オバマ米大統領が掲げる「核兵器なき世界」は9月に国連安全保障理事会の決議でも支持され共感が広がっているが、具体化に向けた道のりは厳しい。

 米ロの戦略核弾頭数は既に、START1の上限6千を大幅に下回っている。加えて、現在良好な両国関係を踏まえると、即座に「失効=危機的な状況」とはならない。後継条約成立まではSTART1の効力も維持されることになった。

 だが不透明感はぬぐえない。主な対立点の一つが米ロ間に残された核軍縮条約、戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)には規定がない、条約履行状況の検証措置の在り方だ。

 冷戦の雰囲気がまだ色濃く残る1991年7月、当時のブッシュ米大統領とゴルバチョフ・ソ連大統領の間で調印されたSTART1は、互いのミサイル組立工場での常時監視や特別査察、データ交換などの厳しい検証措置を定めた。

 特にソ連が力を入れていた移動式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産と配備に厳しい制限を加えたのが特徴。当時はソ連の崩壊直前で、ソ連指導部は米国からの経済協力を受けるため自国に不利な条件を受け入れざるを得なかったという事情がある。

 後継条約交渉に際し、ロシア側は「透明性を高めるにはほかの方法もある。ミサイル工場の常時監視は行き過ぎだ」として検証措置の簡素化を要求。しかしロシア紙コメルサントによると米側は現在、ロシアしか保有していない移動式ICBMへの監視体制の維持のみならず、強化することを求めている。

 米ロ両国は2007年7月、START1失効後にも法的拘束力のある合意を目指す方針で一致した。だが昨年の両国関係の冷却化や米側の政権交代などが重なり、実質的な交渉が始まったのは今年3月。オバマ政権下で初めて行われた米ロ外相会談の場だった。

 START1は交渉開始から締結まで9年を要した。後継条約であることを割り引いても、検証措置やミサイルなど核弾頭運搬手段の数え方についての両者の隔たりを踏まえれば、年内合意を目指した今回の交渉の時間不足は否めない。

 ただ米側にはSTART1の単純延長は選択肢としてあり得なかった。オバマ政権が重要視する来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の成功に向け、世界で群を抜く核戦力を誇る米ロが、さらなる核軍縮に真剣に取り組む姿勢を形で示す必要があったためだ。

 ロシアの軍事専門家、アルバトフ元下院議員は「このような条約の締結には時間が必要だ」と指摘。「本当に新条約を早期に結びたいなら、両大統領がもっと交渉の過程に関与する必要がある」と語り、両首脳の指導力が鍵を握るとみている。

(共同通信配信、2009年12月6日朝刊掲載)

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