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米軍、11年夏撤退開始 アフガン新戦略 大統領が演説 来年3万人増派

 オバマ米大統領は1日夜(日本時間2日午前)、来年前半にアフガニスタン駐留米軍を3万人増派し、武装勢力掃討とアフガン治安部隊の能力拡充を進め、2011年7月の米軍撤退開始を目指すアフガン新戦略を発表した。増派後の駐留米軍は約10万人規模で、オバマ氏就任時の約3万2千人から3倍となる。

 ニューヨーク州ウエストポイントの陸軍士官学校での演説で発表。増派に伴い1年で約300億ドル(約2兆6千億円)が新たに必要になるとの見通しも示した。

 国際テロ組織アルカイダの壊滅とアフガン情勢の安定化を目指し、オバマ政権は軍民両面でアフガンへの関与拡大を決断。一方で米軍撤退の開始時期など「出口戦略」を示し、厭戦(えんせん)気分が高まる国内外の反発に配慮した。01年にブッシュ前政権下で始まったアフガンでの軍事作戦で、具体的な撤退時期が示されたのは初めて。

 オバマ氏は3万人の増派部隊について「反政府勢力の掃討や主要な人口密集地の安全確保のため、来年前半に可能な限り迅速に派遣する」と言明。撤退完了時期は示さず、治安権限を移譲するアフガン治安部隊への助言と支援の継続を約束した。

 また国際的支持を得ているとしてアフガンは「ベトナムとは違う」と強調。アフガン国民に対し、アフガンを占領する考えはないと述べた。

「出口」への展望開けず

 オバマ米大統領がアフガニスタン駐留米軍増派を決断した。「1年半で結果を出す」との条件付き時限作戦で、9年目に入ったアフガンでの戦争終結へ動きだすが、イラクで一定の成果を挙げた増派が再び通用するかは未知数。1年で300億ドルという莫大(ばくだい)な戦費は財政をさらに圧迫する。

 1日夜。アフガン新戦略を発表した陸軍士官学校での演説には、いつもの熱狂も歓声もなかった。控えめの拍手と、軍服姿で聞き入る若者らの硬い表情が状況の厳しさを物語る。

 アフガン情勢安定に向けた部隊増派だが、その後の駐留が長引けば、ブッシュ前政権の首を絞めた「イラク泥沼化」の愚を繰り返すことになる。

 オバマ氏が選んだのは、3万人の部隊を増派する代わりに、1年半の短期間でアフガン政府と治安部隊を強化し、撤退開始に道筋を付けるという難事業だ。アフガン駐留米軍トップのマクリスタル司令官が求めた増派に応じて保守派の意向をくむ一方で、撤退時期の明示で民主党リベラル派の批判も封じる狙いだ。

 だが〝勝利〟への具体的展望は開けない。2007年1月に始まったイラク米軍増派が成功したのは、米軍の軍事力に加えて「殺し合いに疲れ果てた市民が、国際テロ組織アルカイダへの反感から米軍協力に転じた」(外交筋)ことが大きく、アフガンとは状況が異なる。

 戦費300億ドルは、兵士1人の増派に100万ドルかかる計算で、米民主党から「戦争税」の必要性を指摘する声が上がった。オバマ大統領は、国内でも出口の見えない議論に臨むことになる。


アフガン新戦略要旨

 一、軍の最高司令官として、3万人のアフガン増派が国益にかなうと判断した。増派により、アフガ
    ン軍への治安権限移譲が加速し、アフガン駐留米軍の撤退は2011年7月に開始できる。
 一、国際テロ組織アルカイダを粉砕し、排除し、打ち負かす目標に変わりはない。
 一、3万人は、反政府勢力の掃討や主要な人口密集地の安全確保のため、可能な限り迅速に10
    年前半に派遣する。
 一、今回の決定に際しては同盟国にも貢献を求めた。既に部隊を増派した国もあり、今後さらに貢
    献してくれることを確信している。
 一、イラクで行ったように、現地の状況を考慮しながら、治安権限移譲を実行する。
 一、汚職と闘い、人々に支援を行き渡らせようとするアフガンの知事らを支援する。
 一、戦争と苦しみの時代を終わらせる。アフガンを占領しようとは考えていない。
 一、アフガンでの成功はパキスタンとの協力関係と密接不可分だ。
 一、ベトナム戦争とは違い、アフガンでは国際的な支持があり、広範囲な民衆からの抵抗がある
    わけではない。最も重要なのは、米国民がアフガンから攻撃され、依然として同じ過激派から
    標的とされ続けていることだ。
 一、アフガン国民自身が安全保障には責任を持つべきだということと、米国がアフガンで終わりの
    ない戦いを続けるつもりはないことを明確にしたい。
 一、新戦略により1年で軍だけで、約300億ドル(2兆6千億円)の支出を伴うと見込まれる。

(2009年12月3日朝刊掲載)

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