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原爆症早期審査義務付けを 広島の支援団体が提訴検討 

■記者 東海右佐衛門直柄

 原爆症認定申請の審査待ちが約8千人に上る問題で、広島の支援団体が、裁判所の命令で国に速やかな審査と認定手続きを義務付けるための訴訟の検討を始めた。既に大阪、名古屋の各地裁で同種の訴訟が係争中。被爆地からも司法に訴えて国に強く改善を促す狙いがある。

 広島の「原爆訴訟を支援する会」は11月下旬、審査待ちが続いている可能性が高い広島県内の被爆者89人に文書を郵送した。行政事件訴訟法に基づく「義務付け訴訟」を紹介し、訴訟への参加の意思確認をする内容。

 審査待ちの背景には、2008年4月の認定基準緩和を受けた申請者の急増がある。厚生労働省健康局によると、08年度の申請件数は約8500件と、2007年度の5.3倍に達した。

 厚労省は2008年3月以降、審査を担当する医療分科会メンバーを19人から31人に増員▽病気の種類別の4部会を新設し、審査回数を月1回から5回に増加―と態勢を強化。2008年度は2969件を認定した。2007年度の約23倍に当たる。

 それでも審査待ちは改善しなかった。2009年度は月200~500件の申請があり、11月末の審査待ちは約8千人に膨れている。基準緩和直前の2008年3月末の約2300人に比べ3.5倍の多さだ。

 白内障に苦しむ広島市南区の被爆者佐伯忠義さん(72)は「どれだけ待たされるのか。体が持たない」と訴え、訴訟への参加を検討する。2007年4月の申請から2年8カ月、審査結果を待つ。視力は右目が0.01、左目はほとんど見えない。原爆症認定集団訴訟の敗訴原告を救済する基金法が1日に成立したことを報じた新聞記事は文字拡大器で読んだ。

 支援する会代表世話人の田村和之竜谷大法科大学院教授は「審査が滞留する原因は国の態勢不備だ。現状を見過ごしてきた責任は重い」と主張。来年1月中旬に会の会合を開き、提訴に向けた具体的なスケジュールなどを詰める方針でいる。

 厚生労働省健康局は「病気の放射性起因性を審査するには識者の見解が必要であり、時間がかかる」と説明。「全力で迅速に審査している。不作為にはあたらない」と強調している。

原爆症認定
 被爆者援護法に基づき、病気と原爆放射線との関連、治療の必要性を専門家が審査し、厚生労働相が認定。月額約13万7千円の医療特別手当を支給する。日本被団協が主導し、認定の却下処分取り消しなどを求めた集団訴訟で国側は相次ぎ敗訴。こうした状況を踏まえ、厚生労働省は2008年4月、がんや白血病など5疾病を積極認定するよう条件を緩和。2009年6月には積極認定の対象疾病を拡大した。

(2009年12月10日朝刊掲載)

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