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オバマ大統領 ノーベル平和賞演説 NPTは米外交の要

 オバマ米大統領(48)へのノーベル平和賞授賞式が10日午後1時(日本時間同9時)から、ノルウェーの首都オスロの市庁舎で行われた。オバマ氏は受賞演説で「核兵器拡散を阻止し、核兵器のない世界を追求する取り組みが急務」と述べるとともに、核拡散防止条約(NPT)は「私の外交政策の要」と表明。原子力の平和利用を認めたNPT体制を悪用し、これを隠れみのに核開発を進めないよう北朝鮮とイランに警告した。地球温暖化対策の重要性も強調。脅威が多様化した現代世界では「米国は単独で行動することはできない」と述べ、国際協調路線を再確認した。

 オバマ氏は演説で、米公民権運動指導者のキング牧師や、インド独立の父ガンジーを評価する一方、2人の非暴力主義は「どんな状況でも現実的で可能とは限らない」と指摘した。

 「世界には悪が存在する」と述べ、国際テロ組織アルカイダなどに対する武力行使は容認されると主張。イラクとアフガニスタンで戦争を遂行している米軍最高司令官のジレンマもにじませた。

 ノルウェーのノーベル賞委員会はオバマ氏が今年4月にプラハで宣言した「核兵器なき世界」構想や「外交と人々の協調を強化するための並外れた努力」を高く評価。

 イラク戦争などで世界を分断したブッシュ前政権の単独行動主義を戒める一方、今年1月に黒人として初の大統領に就任してから1年に満たないオバマ氏が掲げる希望の「理念」実現に向けて後押しした。

 同委員会はオバマ氏にメダルと賞金1千万スウェーデンクローナ(約1億2千万円)を贈呈。オバマ氏は賞金を慈善事業に寄付する意向を既に示している。

 在職中の国家首脳の平和賞受賞は、2000年に南北首脳会談を実現した当時の韓国大統領、故金大中(キムデジュン)氏以来。米大統領ではオバマ氏のほか、日露戦争の講和調停に尽力したセオドア・ルーズベルト(1906年)、国際連盟創設の立役者ウィルソン(1919年)の2人。


<解説>協調主義で世界を先導

 オバマ米大統領は10日のノーベル平和賞授賞式の演説で「核兵器なき世界」を追求する決意を示すとともに、脅威が多様化した現代では「米国は単独で行動できない」と述べ、国際協調主義で米国が世界を先導する姿勢を明示した。

 オバマ氏は、ブッシュ前大統領と同様に、世界の軍事費の約4割を占める米国の指導者で、約20万人の兵力をイラク、アフガニスタンに展開する「戦時下の大統領」だが、ブッシュ氏の単独行動主義とは決別。米大統領の就任1年目の訪問国数はブッシュ(父)、フォード両氏の15カ国がこれまで最多だったが、オバマ氏は既に21カ国となっており、対話重視の姿勢は行動に表れている。

 国際社会の米国への対応も変化した。今月1日にオバマ氏が米軍3万人増派を柱とするアフガン新戦略を発表すると、北大西洋条約機構(NATO)は4日、7千人増派を決定。イラク戦争で米欧間に亀裂が生じたブッシュ前政権時には考えられなかった反応の良さだ。

 裏を返せば、米国が思い描く世界戦略に他国を巻き込む形ができつつあることを示している。

 核廃絶への取り組みも、核の管理体制が整い、究極的に核がなくなれば、米国がテロリストや敵対国から核攻撃を受ける危険性が減るとの考えに基づく。米国の国益を守るため、誰も異議を唱えられない金看板を掲げ、協力を求めている形だ。

 オバマ氏は単純な「反核・平和主義者」では断じてない。平和賞の威光に惑わされず、その真意に注意する必要がある。

(共同通信配信、2009年12月11日朝刊掲載)

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