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連載・特集

核兵器はなくせる 第1章 特集・廃絶へ世界新潮流

■記者 吉原圭介、金崎由美、林淳一郎

 冷戦時代に米国の核政策を担った元政府高官たちが「核兵器のない世界」を訴え、他の核保有国の指導者たちからも賛同表明が相次いでいる。背景にあるのは核拡散や核テロへの脅威。未曾有の体験を基にした被爆者たちの訴えとは文脈が異なるものの、「核兵器廃絶」のゴールは一致する。人類の頭上に原爆を投下した米国の変化の兆しと、核兵器をめぐる世界の最新情勢をみる。

「期限」定めた運動次々 テロの脅威が背景に

 核兵器を地球上からなくす「期限」を定めた廃絶運動が広がっている。先駆けとなったのは平和市長会議(会長・秋葉忠利広島市長)が2020年の廃絶を提唱した「2020ビジョン」。昨年パリで開かれた「グローバルゼロ」創設会議では、2035年という目標が示された。

 これまでの廃絶運動とは一味違う新たな潮流だ。

 2020ビジョンは2003年11月に発表された。市長会議は昨年4月、そのステップを示す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」も国際社会に示した。2015年までに新たな核兵器取得や使用につながる行為の禁止を条約などで法制化。2020年までに関連配備システムを廃止し、在庫も廃棄する-とうたう。

 当面、2010年に開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議での議定書採択が目標。市長会議は、その前段となる今年秋の国連総会での決議を求め、各国政府への働きかけを強めている。

 一方、シュルツ元米国務長官らの提言に触発され、具体的な政治課題として段階的に核兵器廃絶を実現しようとスタートした世界規模の運動「グローバルゼロ」。昨年末、目標を35年に設定する行動計画を公表した。

 米国の安全保障研究機関などが呼び掛け、発起人にはカーター元米大統領やゴルバチョフ元ソ連大統領、川口順子元外相たち約100人が名を連ねている。

 このほか、日豪政府主導で昨年10月に初会合があった「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」は今年中にもまとめる報告書に、核兵器ゼロへの数値目標を入れることを検討している。

1万発なお実戦配備 終末時計はあと「5分」

 「広島、長崎」以後、各国は核開発競争を強め、核弾頭の数は膨らみ続けた。現在も2万5000発以上が存在するとされる。世界は常に、核兵器使用の危険と隣り合わせにいる。

 各国の核兵器は1980年代までに、米ソだけで計約7万発に増えた。1989年に東西冷戦が終結。米ソ両国間で削減交渉が始まり、核戦争の恐怖が薄らいだと感じられた時期もあった。しかし、いまだに約1万発が実戦配備状態にある。

 午前零時を核戦争による地球破滅のときとして、米科学誌が掲載している「終末時計」は現在、あと「5分」。1991年に「17分」まで引き戻されたが、1998年にはインドとパキスタンが核実験を実施。2001年の米中枢同時テロは、テロリストによる核兵器の無差別使用という新たな脅威を予感させる惨事でもあった。

 2006年の北朝鮮核実験、イランの核開発疑惑、そして被爆国日本でも核武装論がある。「5分」の針をさらに進めるのか、それとも核兵器による脅威をゼロにするのか。世界の核情勢は歴史的な転換点に差しかかっている。

(2009年2月11日朝刊掲載)

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