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連載・特集

核兵器はなくせる 第1章 転機の超大国 <5> 信頼回復

■記者 金崎由美

CTBT批准へ期待 NPT会議成否の鍵


 オバマ氏の大統領就任が決まった昨年11月以降、新政権の課題をめぐる討論会が全米各地で相次いだ。

 「包括的核実験禁止条約(CTBT)を早期に批准する絶好のチャンス」
 「米国が批准すれば2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、核保有国の軍縮義務について正面から議論できる」
 「核軍縮を通じて米国の信頼回復を」

 12月にワシントンのカーネギー国際平和財団であった討論会「(核兵器)ゼロへのステップ」。平和団体「社会的責任を果たす医師の会(PSR)」が主催し、議会の調査専門員などを務めた4人の専門家が活発な議論を展開していた。

 「今は核兵器のない世界へと踏み出すチャンス。より議論を重ねてオバマ氏や議会に具体的な政策を提言したい」。PSRのジル・パリロ安全保障局長代理が討論会開催の意義を語った。

 すべての核爆発を禁じるCTBT。討論会の焦点の一つとなったのは、発効すれば核兵器の開発が困難となり、NPTを補完すると期待されるためだ。

 しかもクリントン政権下の1999年、米上院は批准を否決したものの、オバマ大統領は前向きな姿勢を示している。新政権にとって批准の実現は、核軍縮をアピールする絶好の機会ともなる。

 ワシントンの上院議員会館の真向かいにオフィスを構えるクエーカー教徒の団体「連邦立法に関するフレンズ委員会」。軍縮ロビイストの第一人者、デビッド・カルプ氏は「CTBT批准に必要な3分の2以上の賛成を得るためには、政権がどれだけ早く、確実に上院を説得できるかが鍵」と分析する。

 CTBTに対する政権のスタンスは、2010年のNPT再検討会議の行方も占う。

 2000年の再検討会議は、核兵器廃絶を「明確に約束する」最終文書を採択したことで画期的だった。核軍縮のための13項目のトップに「CTBTの発効」もうたった。

 だが、その次の2005年の再検討会議で米国は「2000年の合意は存在しない」などと主張し、非同盟諸国などと対立。実質的な合意は何ら得られずに閉幕した。

 カーネギー国際平和財団のディープティ・チョーベイ研究員(32)は「NPTの軍縮義務を果たさないことに、非保有国がどれほど不満を蓄積しているか、米国は見誤っていた」とみる。

 CTBTを早期に批准し、米国は国際社会の信頼を取り戻せるか。それが来年に迫った次のNPT再検討会議の成否を左右する。

包括的核実験禁止条約(CTBT)
 爆発を伴うすべての核実験の禁止と国際的な監視体制を定める。1996年の国連総会で採択した。原子炉を持つなど核開発能力がある44カ国の批准が発効の条件で、うち米国、中国、インドネシア、イスラエル、イラン、エジプトは署名済みだが未批准。インド、パキスタン、北朝鮮は未署名。

(2009年2月15日朝刊掲載)

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