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核兵器はなくせる 第1章 転機の超大国 <6> 米印原子力協定

■記者 金崎由美

「二重基準」懸念の声 IAEA監視に評価も


 米国とインドとの原子力協力協定は、核拡散防止に水を差しかねない。核拡散防止条約(NPT)の重視を表明しているオバマ大統領は上院議員だった昨秋、この協定に賛成票を投じた。「大統領選を前に、インド系住民の票に配慮した」とささやかれる。

 ホワイトハウスから歩いて約10分のオフィス街にあるビル。専門誌「アームズ・コントロール・トゥデイ」を発行する軍備管理協会で、ピーター・クレイル研究員(29)はNPT未加盟のインドと原子力協定を交わすデメリットをこう分析した。

 「NPTの枠外にいても核兵器の保有、核燃料の輸入、使用済み核燃料の再処理が許される前例になってしまう。それは、NPT加盟国のイランに核開発をやめろと迫る説得力を弱めてしまう」

 インドは、パキスタンやイスラエルとともにNPT加盟を拒んできた。日本など原子力供給国グループ(NSG)は、これらの国への原子力関連輸出を規制し、NPT体制を支えてきた。

 しかし2005年、米印両国首脳は原子力協力に合意した。ブッシュ前大統領は任期満了を控えた昨年夏、関係各国に圧力外交を展開。原子力施設を査察する国際原子力機関(IAEA)の理事会と、NSGは、全会一致で協定を承認した。米市民も、被爆地でも「核兵器開発を助けるようなもの」と激しく反発する動きが広がった。

 ニュージャージー州のプリンストン大で、南アジアの安全保障問題が専門の核物理学者ジア・ミヤーン研究員(47)が皮肉を込めた。「結局、核拡散防止よりもビジネスを選んだということだよ。米国に気を使った日本政府も同じさ」

 一方、協定を前向きにとらえる人もいる。

 「一部でもIAEAの監視下に置き、不拡散体制に招き入れる意義は大きい。インドの特別扱いが、あしき前例にはならないわ」。国務省や中央情報局(CIA)勤務を経験した南アジア問題の専門家、ヘリテージ財団(ワシントン)のリサ・カーチス研究員は指摘する。「インドは世界最大の民主主義国。イランやパキスタンとは違う。米印の関係強化は、アジアの安定にもプラスになる」

 とはいえ、相手国によって適用ルールを変えることは、「二重基準」にほかならない。軍備管理協会のクレイル氏は「二重基準の傷口を埋める努力が必要」との表現で、兵器級の核物質を取り出すことができるウラン濃縮や再処理について厳格な国際ルールを設ける必要性を説く。

米印原子力協力協定
 米国がインドに対し、原子力発電用の燃料や技術を輸出する二国間協定。建設中や計画中を含む22の原子炉のうち、インドが指定する14施設を国際原子力機関(IAEA)の査察下に置く。軍事用施設は査察対象外。

原子力供給国グループ
 インドの核実験を契機に米国の主導で1978年設立した。原発に使う資材や核燃料が核兵器に転用されるのを防ぐため、輸出規制ルールを調整する国際的な枠組み。事務局の日本を含む45カ国で組織する。

(2009年2月17日朝刊掲載)

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