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連載・特集

核兵器はなくせる 第1章 転機の超大国 <7> ヒロシマから

■記者 金崎由美

世論喚起 草の根活動 展示や平和市長会議


 オバマ大統領の地元イリノイ州シカゴにあるデュポール大の准教授、宮本ゆきさん(41)には忘れられない日がある。2007年10月2日ー。「オバマ氏とヒロシマがつながった日」と信じている。

 広島市中区出身、被爆二世の宮本さんたちはこの日、大学構内で1週間後から始める原爆展に向け、原爆被害を伝える写真パネル約50枚を会場の施設に並べ終えていた。

 突然、オバマ氏が現れた。大統領選の前段階である民主党予備選を控え、学内で講演するためだった。パネルが両側に並ぶ廊下を歩き、スピーチ会場へ。そこで初めて表明した。「核兵器のない世界を目指す」と。

 オバマ氏はもともと米国の核兵器政策についてスピーチで触れる予定だったとされる。被爆地の写真がどれほど彼の心を動かしたかは分からない。宮本さんはしかし、「核兵器を肯定する世論が根強い国で、きっぱり語った。印象的でした」と振り返る。

 デュポール大での展示会は、広島平和文化センターが2007年9月、原爆投下国で核兵器廃絶の世論喚起をと全50州での開催を目標に始めた全米原爆展の一環。ロサンゼルス郊外に住む被爆者の笹森恵子さん(76)は「オバマ氏自身が写真を見てくれたのは素晴らしい。原爆展の巡回は市民に核兵器の恐ろしさを浸透させ、オバマ氏の政策を下支えする」と意義を語る。

 サンフランシスコの対岸に位置するオークランド。中心部にある民家風の事務所で、ジャッキー・カバッソさん(57)が笑顔で迎えてくれた。秋葉忠利広島市長が会長を務める平和市長会議の北米コーディネーターである。

 加盟都市を広げる活動に加え、市長会議が提唱する2020年までの核兵器廃絶運動「2020ビジョン」を推進するのが役目。ビジョン実現の道筋を示す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」が来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で採択されるよう署名集めを続け、各国代表へロビー活動を繰り広げている。

 「賛同の輪をさらに広げたい」との行動が実り、議定書は約1200都市が加盟する全米市長会議の賛同を得た。昨年10月にはアイオワ州でシンポジウムを開き、「核兵器使用は環境破壊」とアピール。地球温暖化問題に関心を持つ市長らにも連帯を呼びかけた。

 核兵器という外交、安全保障の問題で都市が前面に出ることには批判もある。しかし、「都市は住民に一番近い立場。そこから訴える意義は大きい」とカバッソさん。草の根から発信を継続している。

(2009年2月19日朝刊掲載)

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