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連載・特集

核兵器はなくせる 第2章 南アジアの冷戦 <7> 放棄への道

■記者 林淳一郎

全保有国 対話の場必要 まず隣国と関係改善

 気温30度。2月上旬というのにインド南部チェンナイは汗ばむ陽気だった。市内のホテルであった核軍縮シンポジウムも、熱気あるやりとりが続いた。

 民間の「安全分析センター」が主催し、集まったのは軍人や研究者ら約40人。講演したV・R・ラガバン所長(73)は、会場からの質問に一つ一つ丁寧に答えていた。「核兵器を減らせばテロリストも入手しにくくなる。だから、ゼロにしなければならない」

 ラガバン氏は1994年まで国軍の参謀本部作戦本部長を務めた元軍人。現在は、日本とオーストラリア両政府の主導で議論を続けている核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)の諮問委員の1人でもある。

 講演を終えたラガバン氏に、核兵器をゼロにする具体的な手法を尋ねた。

 「核兵器を『使わない』国際条約づくりがゼロの可能性を開く。ただし『P5』が動きだすかどうかが鍵だ」

 P5とは国連常任理事国であり、核拡散防止条約(NPT)が核兵器国と定める米国、ロシア、中国、英国、フランスの5カ国。実際にこれまでの核軍縮の歩みは、P5各国が自主的に削減するか、米ロなどの二国間交渉に委ねられてきた。

 一方、インドやパキスタンはNPTに加盟せず、5カ国と協議する機会も少ない。こうした点を踏まえ、ラガバン氏は、すべての核兵器保有国による「新たな協議のテーブル」の必要性を説く。

 パキスタンでも、まず自国から率先して核兵器を削減しようとの主張は少数派だ。イスラマバードにある戦略研究所のファザル・ラーマン氏(48)は「廃絶の流れはトップ(米国)から始めないと、すんなりといかない」と主張する。「中国が核を持つ限り、インドは核を手放さないよ」とも指摘する。

 ほかにもインドとパキスタン両国で会った識者の多くは、核兵器の廃絶には使用や開発を防ぐ着実なステップが先決と説いた。自国の核廃絶には隣国との関係改善が大前提。それが一朝一夕に進まないのなら、核軍縮・不拡散の面で例えば、両国とも未署名の包括的核実験禁止条約(CTBT)を発効させる取り組みなどを優先すべきだとの論理だ。

 南アジアのようにP5以外の新たな核兵器国が誕生した20世紀後半。インドとパキスタンの現状は、いったん手にした核の放棄がいかに難しいかを突きつける。全世界的な軍縮対話と地域間の信頼醸成-。困難な「2本の道」の先に、核兵器ゼロのゴールがある。

(2009年3月27日朝刊掲載)

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