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連載・特集

核兵器はなくせる 第3章 モンゴルの挑戦 <3> ウラン資源

■記者 吉原圭介

初の原発建設へ全力 放射線知識 普及が課題

 週刊英字紙「モンゴル・メッセンジャー」は4月下旬、サンジャー・バヤル首相と国際原子力機関(IAEA)のムハンマド・エルバラダイ事務局長が固く握手した写真を1面トップで報じた。「IAEA、モンゴルを支援」の見出しが躍る。

 国策として取り組む原子力発電所建設のことだ。まず2015年をめどに研究炉を設け、平和利用の道筋を築く。エネルギー確保のほか、環境対策の側面もある構想という。

 首都ウランバートル中心部から南西へ約4キロ、チンギスハン空港との中間あたりに火力発電所がある。国産の石炭を使い、黒煙を上げていた。国内には同様の発電所が計7カ所ある。

 「石炭は安いが、大気汚染対策の費用を考えると原発の方が安くつく。それに原料のウランは国内にある」。原子力エネルギー庁のソドノム・エンフバット長官(54)は、国内初の原発建設への意気込みを口にする。

 モンゴルには核兵器の材料にも原発の燃料にもなる天然ウラン資源が豊富にある。旧ソ連と1980年代に実施した共同探査によると、埋蔵量は推定6万3000~7万3000トン。世界13~15位に相当する。一方、地層研究などから100万トンとの見方もあり、これなら世界の5本の指に入る。

 採掘はIAEAの協力で早ければ来年にも始まる見通し。政府は現在、原子力利用に関する基本方針と法律案作りを進める。エンフバット長官は「あくまで平和利用。(核兵器の開発や保有、領土内通過を禁じた)2000年制定の国内法があるし、IAEAの(査察を受け入れる)追加議定書にもサインしている」と強調する。

 商業利用開始には今のところ、表だった反対運動はない。むしろ国内での放射線の知識普及が課題との指摘がある。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)モンゴル支部によると2年前、30代男性がウラン鉱山から販売目的で鉱石を持ち帰ってベッド下に隠し、逮捕されたという。

 このため支部は若手医師が中心となり、放射線の人体影響や原爆被害について鎌田七男広島原爆被爆者援護事業団理事長がまとめた解説書「広島のおばあちゃん」をモンゴル語訳した。ただ資金難から、2000部で約100万円かかる出版計画はストップしている。  メンバーのソドノムルジャ・オユンツェツェグ医師(50)は「モンゴルでは歌謡曲『折り鶴の歌』が大ヒットし、ヒロシマのことはよく知られている。ただ放射線被害のことは知られていない。今だからこそ出版したい」と訴える。

(2009年6月3日朝刊掲載)

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