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連載・特集

核兵器はなくせる 第4章 NATO・冷戦の遺物 <1> シェアリング

■記者 金崎由美

米、非保有国に配備 NPT違反の指摘も

 東西対立の象徴だった「ベルリンの壁」が崩壊して20年たち、欧州が核兵器を持つ意味は見いだしにくくなっている。ところが、英国とフランスは独自に核兵器を保有し続け、北大西洋条約機構(NATO)加盟国には米国の戦術核が配備されたままだ。なぜ「冷戦の遺物」を取り除くことができないのだろうか。NATO諸国の実情をリポートする。

 のどかな牧草地や畑に囲まれ、フェンス越しの滑走路を眺めていると、上空で軍用機が急旋回した。ごう音に身がすくむ。米国が開発した戦闘機F16だ。

 NATO本部のあるベルギーの首都ブリュッセルから車で2時間半。オランダ国境まで7キロの町ピールに、クライネ・ブローゲル空軍基地がある。正門前で、ベルギーの3色国旗と米国の星条旗が並んではためいていた。

 基地監視団体「ピース・アクション」メンバーのロエル・スタイネンさん(28)が話してくれた。「ここの飛行中隊は米軍の核爆弾を投下する任務がある。訓練もしている。私たちは、そんな核シェアリング(共有)の解消を訴えている」

 核の共有―。各国の空軍基地に米軍が駐留し核兵器を管理。戦争になれば核を配備国に譲り渡し、配備国が実戦で使う。いわば核攻撃の委託システムだ。

 クライネ・ブローゲル基地内にも戦闘機に搭載可能な米国の核爆弾B61が10~20個あると推定されている。そのシェアリングは、核兵器の譲り渡しを禁じた核拡散防止条約(NPT)違反だとスタイネンさんは訴える。

 ピーク時から比べると大きく減った。非核兵器保有国が核を保有すれば確かにNPT違反。何より冷戦は終結したのに、なぜ核兵器が必要なのか―。

 ベルギー下院のルードウィヒ・バンデンホブ国防委員長(49)が説明する。「自国にある核兵器について話すことは一種のタブー。核兵器の所在をNATOは一切明らかにしていないのだから」。昨年1月、基地を視察した国防相がうっかり「核がある」と発言、撤回する騒ぎもあった。NATO本部のおひざ元で、軍事同盟のかつての象徴を批判するのは容易ではなさそうだ。

 一方、ベルギー上院は2005年4月、戦術核の段階的な撤去を求める決議をした。

 「核シェアリングをめぐる議論につなげたかった」と振り返るのはパトリック・バンクルンケルスベン上院議員(51)。元市長として平和市長会議(会長・秋葉忠利広島市長)にも熱心にかかわる。今年1月には、20年までの核兵器廃絶を目指す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」への賛同も含めた軍縮推進決議の上院採択にも尽力した。

 風穴は少しずつ、広がっている。

北大西洋条約機構(NATO)
 1949年4月、旧ソ連に対抗して米国や西欧の計12カ国で発足した軍事同盟。東欧諸国のワルシャワ条約機構と対立を続けた。  冷戦終結後は新たな存在意義を模索し、旧ユーゴスラビアの地域紛争、アフガニスタンでの対テロ作戦など域外へ積極展開。「東方拡大」を進め、現在の加盟は28カ国。米国のミサイル防衛(MD)東欧配備計画とともに、ロシアとの緊張要因になっている。

(2009年6月13日朝刊掲載)

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