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連載・特集

核兵器はなくせる 第4章 NATO・冷戦の遺物 <3> 無用の長物

■記者 金崎由美

中東に軸足 米が撤去 政治的役割 核の傘なお

 北大西洋条約機構(NATO)の核戦力拠点となっている欧州各国の空軍基地から、米国の核兵器が撤去される例がある。最近では、英国のレイケンヒースだ。

 首都ロンドンから北東へ約110キロ。なだらかな丘陵が広がり、隣接するゴルフコースでラウンドに興じる人影が見える。この英空軍の基地に米空軍のF15戦闘機が駐留。かまぼこ形をした計66の格納庫のうち、半数の33は地下に核兵器が貯蔵できるとされてきた。

 しかし、ここに計110個あったとされる米国の核爆弾B61は昨年6月までに、米国が持ち帰ったとみられている。

 キャッチしたのは全米科学者連盟(米ワシントン)のハンス・クリステンセン氏(48)だった。米国の情報公開法や独自の情報源を駆使。このレイケンヒース基地が、核兵器の安全性に関する現地査察の対象外となったことを突き止めた。

 「本当にうれしかったわよ。本当に」。地元で「レイケンヒース行動グループ」を結成し、核兵器反対運動を続けてきたダビダ・ヒギンさん(82)は、撤去の知らせを聞いた瞬間を思い出して声を弾ませる。非暴力のスタイルでの運動だが、基地前で逮捕されたこともある。目的を達成した今、活動は休止した。

 ただ、手放しで喜んでいるわけではない。「この国から核兵器をなくすには、壁がまだたくさん残っている」

 そうヒギンさんも指摘するように、欧州では英国とフランスが独自の核兵器を保有。さらに米国が本土や潜水艦から発射できる戦略核により、NATO圏域は米国の「核の傘」の下にある。今回の英国からの戦術核B61の全面撤去は、欧州全体の核戦力からみれば、わずかな削減にすぎない。

 クリステンセン氏によると、B61の撤去は2001年のギリシャ・アラクソス、2005年のドイツ・ラムシュタイン基地などに続く。「NATOの戦略的な重心は中東方面に移り、中東から遠いドイツや英国に戦術核を置く意味はなくなった。それに、核任務よりも重要な課題がいくつもある」

 途中給油をしなければ、B61を搭載する戦闘機の行動半径は欧州内に限られる。それよりも、アフガニスタンに展開するNATO軍に戦闘機や要員を派遣する方が重要で現実的な任務というわけだ。

 「無用の長物」という言葉がぴったりのNATOの核。そのNATO自身も1999年の首脳会議で採択した長期方針「新戦略概念」で、戦術核の役割を「北米と欧州を結ぶ政治的、軍事的なきずな」と規定した。

 それは、軍事面での意味を失った核兵器に、「政治的」というあいまいな役割を担わせている現状を如実に示す。

(2009年6月17日朝刊掲載)

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