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連載・特集

核兵器はなくせる 第4章 NATO・冷戦の遺物 <5> 岐路

■記者 金崎由美

撤去求める議論加速 NPT精神が後押し

 北大西洋条約機構(NATO)の集団防衛システムを問い直す動きが出ている。焦点は、米国が核兵器をNATO域内の非保有国に配備し、戦争になれば使用する権限も与える「核シェアリング(共有)」だ。

 色とりどりのチューリップがじゅうたんのように広がるオランダ。世界の科学者による核兵器廃絶運動、パグウォッシュ会議の年次大会は4月中旬、ハーグ市内で討論会を開いていた。

 議題の一つ「非核保有国と核軍縮」をめぐり、パネリストとして壇上からノルウェーのエイデ国防副大臣が発言した。「欧州の戦術核(米国が配備する核爆弾)をめぐり、NATOで議論したい」

 伏線があった。4月5日、オバマ米大統領は「プラハ演説」で、核兵器のない世界の実現を誓った。これを受けてドイツのシュタインマイヤー外相が週刊誌のインタビューに「ドイツから米国の核を撤去するよう働きかけたい」と答えていた。

 閣僚クラスが相次ぎ「NATOの核」の見直しにつながる見解を表明するのは異例だ。

 エイデ氏の発言を聞いていたドイツの軍縮専門家オリバー・マイヤー氏(45)が背景を説明する。「米国とロシアが今年中に戦略核の軍縮交渉を着地させれば、米ロは次に、すべての核兵器を対象とする可能性がある」。この流れを見越した閣僚発言との分析である。

 NATO核の「包囲網」が狭まる。

 欧州連合(EU)27カ国の国旗が掲げられた欧州議会は4月下旬、核軍縮・不拡散に関する決議を採択した。2020年までの核兵器廃絶を目指す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」などを例示し、EU理事会に核拡散防止条約(NPT)体制への協力を促す内容だ。

 決議にかかわった議会スタッフにベルギーで面会すると「決議文の行間に、戦術核への問題意識がにじんでいる」と解説してくれた。農業政策などを軸に「欧州の統合」を意欲的に進めるEUは、大量破壊兵器の拡散防止にも力を入れる。一方で核政策全般は、軍事同盟であるNATOの専権事項。「EUの枠組みでも核問題を議論すべきだと考えるEU議員は多い。彼らはNPTの精神に沿い、戦術核に批判的だ」

 NATOは4月の首脳会議で長期方針「新戦略概念」の見直しを決めた。内部の「核計画グループ」による検討などを経て、来年後半の首脳会議で最終合意する予定である。

 そこで戦術核の役割をなお認めるか。それともマイヤー氏らが期待するように、来春のNPT再検討会議をめどに全面撤去の方針をいち早く打ち出すか―。選択のときが目前に迫る。

  (2009年6月19日朝刊掲載)

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