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核攻撃抑止に限定 核兵器の役割 米指針に明記促す 不拡散委報告書

■記者 金崎由美

 日本、オーストラリア両国政府の提唱で始まった核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)は15日、核兵器廃絶への行動計画を柱とする報告書を両国の首相に提出した。米国に対し、核兵器の役割を核攻撃の抑止に限定するよう促している。

 報告書は「核の脅威を絶つために―世界の政策立案者のための実践的な計画」と題し、英文で332ページ。計76項目の提言を列記し、核兵器廃絶へのロードマップを短、中、長期の3段階で提示した。

 2012年までの短期目標には、「核兵器の唯一の目的」を核兵器の使用抑止に限定することを掲げ、米政府が策定中の核戦略の基本指針「核体制の見直し(NPR)」で宣言することが重要だと指摘した。

 2025年までの中期目標では、核保有国による先制不使用宣言、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効のほか、現在2万発以上ある核弾頭を2千発以下に削減することを盛り込んだ。廃絶は25年以降の長期目標で実現を目指すとし、期限は明記していない。

 共同議長の川口順子、エバンズ両元外相が首相官邸を訪れ、鳩山由紀夫首相と来日中のラッド首相に報告書を手渡した。鳩山首相は「世界を平和に導く案内書ができた。両国政府の1歩、2歩先を行く内容だ」とねぎらった。

 ICNNDは、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の機運盛り上げと各国政府への政策提言を目的に、ラッド首相の提案で発足した。15人の委員と27人の諮問委員が昨年10月のシドニーから今年10月の広島まで計8回の会合・地域会合を重ねて議論してきた。


<解説>不拡散委報告書 日本に政策転換迫る 廃絶へ隔たり埋まらず

■記者 金崎由美

 核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)の報告書は核兵器廃絶の達成時期を明示せず、2020年とする平和市長会議などの訴えとの隔たりは埋まらなかった。一方、核兵器の役割を限定するよう米国に求めるなど踏み込んだ内容もある。オーストラリアとともに議論を主導した被爆国政府は米国の「核の傘」に依存する。今後、その対応が問われることになる。

 「理想的、野心的、実際的。行動指向型の報告書だ」。川口順子共同議長は都内での記者会見で胸を張った。しかし、一刻も早い廃絶を願う被爆者の願いが届いたとはいえない。

 「最終会合は広島で開いたのに、核兵器の被害を実感したとの気持ちが伝わってこない」。外務省であった共同議長との意見交換会に出席した日本被団協の田中熙巳事務局長も悔しさをにじませた。

 一方で報告書は、核保有国とその同盟国が安全保障における核兵器への依存を段階的に減らす必要性に切り込んだ。その一つが核兵器の役割を核抑止に限定すること。先制不使用の前提となる。米国に対し、オバマ政権が策定中の「核体制の見直し(NPR)」へ明記するよう提案した。

 これは、北朝鮮を念頭に生物・化学兵器にも米国の核抑止力を求めてきた日本政府に対し、政策転換を迫る内容だ。「(もう1人の共同議長を務めた)エバンズ氏に日本の外務省が押し切られた」。外務省関係者が舞台裏を明かす。

 そのエバンズ氏は、米国の「核の傘」に対する方針をまだ明確に打ち出していない鳩山由紀夫政権に対し、「(核兵器の役割限定に)賛同するメッセージを米国に向けて発してほしい」と求めている。


不拡散委報告書 行動計画あまりにも遅い 広島・長崎市長ら共同声明

■記者 吉原圭介

 秋葉忠利広島市長や田上富久長崎市長、非政府組織(NGO)の代表ら17人は15日、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)の報告書に対し「核軍縮の行動計画があまりにも遅い」とする共同声明を出した。

 声明は、核兵器の安全保障上の役割を限定する提言が報告書に盛り込まれた点を評価しながらも、廃絶の目標年次を明記していないことなどを「市民社会の期待からかけ離れた」と批判。報告書の内容を各国政府が前倒しして履行するよう求めている。

 声明には両市長のほか、日本被団協の田中熙巳事務局長、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会の森滝春子共同代表、英国アクロニム研究所のレベッカ・ジョンソン所長らが名を連ねた。

(2009年12月16日朝刊掲載)

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