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連載・特集

核兵器はなくせる 第5章 英仏・見えぬ標的 <3> レーザー融合 

■記者 金崎由美

核実験せず弾頭設計 質的な高度化 着々と

 れんが色の家が立ち並び、童話の世界に迷い込んだような気分になる。ロンドンから西約70キロの小さな町レディング。だが町の中心部を抜け、森の坂道を上り切ると突然、異質な風景が現れた。

 鉄条網が何重にも張り巡らされたオルダーマストン原子兵器施設(AWE)だ。数キロ先にあるバーグフィールド施設とともに、トライデントミサイルに搭載する核弾頭の研究や開発、組み立て、品質管理などをしている。

 「核爆発のシミュレーションに必要なレーザー施設など、中は建設ラッシュよ」。敷地を囲むフェンスの傍らでジブリア・ジジリオティさんが顔をしかめた。地元グループ「オルダーマストン女性キャンプ」の約10人でたき火を囲む。23年間、月1回集まり、施設のウオッチを続ける。

 かつては空軍基地だった。1950年、核兵器の研究開発拠点に転用され、現在、ロッキード・マーチン社など米国の2社と英国の1社が英国防省と契約を交わして運営。米国の核弾頭「W76」の改良型を維持管理しているとされる。

 そしてジジリオティさんが指さす方向に巨大な建物があった。レーザー核融合施設だ。実験的に核融合を起こす「地上の太陽」は、次世代の発電技術などとして各国が開発・実用化にしのぎを削る。核兵器開発の分野では、備蓄する核弾頭の安全性や信頼性を確認する技術として利用でき、さらに、核実験をしなくても核弾頭の設計が可能になるとされる。

 1998年、英国は核兵器の保有国として最も早く、フランスと同時に包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准した。新施設が稼働すれば、条約を守りながらの核開発ができる。

 AWEによると2010年をめどに完成予定。総事業費は1億8300万ポンド(287億円)とみられる。約50人でフェンス周囲をデモしていた反核団体、核廃絶キャンペーン(CND)のクリス・ギデンさん(63)は「巨額の費用で核を持ち続けるより、弾頭を廃棄すべきだ」と訴える。

 ドーバー海峡を挟んだフランス。「事情は一緒だよ」とパリで会ったドミニク・ラランさん(65)がうなずいた。やはりレーザー核融合施設を西岸のボルドー近郊に建設中。核兵器廃絶運動「アボリション2000」評議員で国立科学研究センター(CNRS)の勤務経験もある核物理学者は「核弾頭の数だけでなく、質的な強化にも注目しなければならない」と説く。

 この分野では米国がいち早く、核兵器開発の拠点であるローレンス・リバモア国立研究所(カリフォルニア州)に同様の施設を完成させたばかり。核開発の質的な高度化をもたらす技術開発や体制整備が着々と、世界規模で進む。

(2009年6月23日朝刊掲載)

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