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連載・特集

核兵器はなくせる 第6章 揺れる北東アジア <1> 戦時下

■記者 林淳一郎、金崎由美

韓国 渦巻く核強化論 北朝鮮「実験」で緊張

 北朝鮮が繰り返す核実験やミサイル発射のたびに、北東アジアの安全が揺らぐ。韓国では10年以上続いた南北融和ムードが崩れ、被爆国日本の一部で核武装論が勢いを増す。「核兵器のない世界」を目指す国際機運から北東アジアは取り残されるのか。難局の中で、非核化への道をどう導くか―。日韓両国の取材から探る。

 朝鮮戦争が始まってちょうど59年の6月25日。韓国の首都ソウル中心部の公園に、保守系市民団体約300人の怒声が響いた。「核実験、直ちに中断」「先軍(軍事優先)独裁打倒」。ミサイル模型を並べ、プラカードを突き上げて、北朝鮮への抗議を繰り返す。

 1人の男性がトラックの荷台に駆け上がって叫んだ。「まだ戦争は終わっていない」

 朝鮮戦争は1953年7月に「停戦」となったまま、半世紀以上たつ今も終結していない。北緯38度付近を東西241キロ、南北4キロの非武装地帯が横切り、中を走る軍事境界線が実質的な国境だ。

 ソウルの漢江(ハンガン)そばの国会議員会館で、与党ハンナラ党の黄震夏(ファンジンハ)議員(62)が語気を強めた。「北朝鮮は核開発を防御のためという。だが、そうは見えない。地域の安定を破壊する行為だ」

 5月25日の北朝鮮の核実験直後、ハンナラ党は北朝鮮核・挑発対策特別委員会(15人)を設け、対策の勉強を重ねる。副委員長を務める黄議員は「対話解決」を重視するが、同僚議員には強硬論も渦巻く。

 米国の「核の傘」の強化論、日本並み核技術の取得を目指す「核主権論」、さらに自衛用の核兵器開発論…。

 もちろん韓国政界には、こうした傾向を危ぶむ声もある。「威嚇しても北朝鮮は反発するだけ。送るサインを間違ってはいけない」と野党である民主党の金星坤(キムソンゴン)議員(56)は指摘する。南北融和を目指した故盧武鉉(ノムヒョン)政権時に国会国防委員長を務めた経験も踏まえ、「核問題は忍耐と和解。その姿勢を失うと迷走してしまう」。

 海を隔てた被爆国。衆院は6月16日、参院は翌17日、それぞれ日本政府に対し核兵器廃絶に向け主導的な役割を果たすよう求める決議を全会一致で採択した。広島・長崎が原爆の惨禍を体験して64年。「廃絶」を前面に出した決議は立法府として初めてだった。

 画期的な決議は、4月5日のオバマ米大統領の「プラハ演説」を受け、河野洋平衆院議長が音頭を取って準備したという。衆院議院運営委員会理事として文言の検討にかかわった平沢勝栄氏(63)=自民=は「目立った異論はなかった」と説明する。

 やはり理事の玄葉光一郎氏(45)=民主=が打ち明ける。「本当はプラハ演説から間を置かずに反応したかった」。だが演説と同じ日に北朝鮮はミサイルを発射し、その後の核実験。これらへの非難決議を優先させた。

 戦時下の北東アジア。核兵器廃絶への潮流はまだ細く、弱い。

(2009年7月11日朝刊掲載)

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