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連載・特集

核兵器はなくせる 第6章 揺れる北東アジア <6> 先制不使用

■記者 林淳一郎、金崎由美

核の役割 宣言で限定 被爆国日本は否定的

 ただちに核武装するのではなく、ウラン濃縮や核廃棄物の再処理など民生分野で自前の技術を確立する。北朝鮮の核実験以来、韓国でそんな「核主権論」が強まっている。

 「銃には銃、核には核…。原子力の技術を高めることが抑止力につながる」。首都ソウル近郊にあり、安全保障政策などを研究する民間の世宗(セジョン)研究所の宋大晟(ソンデソン)所長(64)が力説する。

 北朝鮮をいたずらに刺激するとの反論もある。政府系の韓国国防研究院の金泰宇(キムテウ)副院長(59)は「核技術開発に(将来の)軍事的な意味合いがあれば国際関係の悪化を招く。核軍縮を進め、同時に核兵器が使われにくくするのが現実的な道だ」。

 金副院長の脳裏にあるのは核主権論よりも「先制不使用」だ。中国・北京で5月にあった「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」でも議論の一つとなった。

 核兵器の使用は核攻撃への反撃に限る。そう宣言することで核兵器の役割は限定的となり、保有する意味を薄める。核兵器保有国では中国が既に宣言した。「米国の安全保障戦略の中で核兵器の役割を減らす」と表明したオバマ米大統領のプラハ演説にも沿う。

 しかし、この考え方を否定するのが被爆国日本の政府だ。今月7日、原水禁国民会議の福山真劫(しんごう)事務局長ら6人が外務省を訪れ、麻生太郎首相らにあてた要請書を佐野利男軍縮不拡散・科学部長に手渡した。「核兵器廃絶のための最低限で即座の措置」として、米国が先制不使用宣言をするよう支援を求める内容だった。

 外務省側は中国の軍拡や北朝鮮の生物・化学兵器も念頭に、「米国の核抑止力に影響が出る」「北東アジアの安定が損なわれる」と主張。議論はかみ合わなかった。

 原水禁がこの時期に要請書を出したのは、ICNNDが10月に被爆地広島で最終会合を開いたうえで、核兵器廃絶に向けた提言を報告書としてまとめるため。先制不使用宣言が盛り込まれるか否かが焦点の一つとされ、ICNNDアドバイザーを務める川崎哲ピースボート共同代表(40)は「被爆国が核軍縮の流れにブレーキをかけている」と危機感をあらわにする。

 2001年、シンクタンクの総合研究開発機構(NIRA)は「核の傘」の検討を含む報告書を発表。「米国と中国が先制不使用を約束することを日本は歓迎するよう検討すべきだ」と提案した。

 当時、座長を務めた堂之脇光朗日本紛争予防センター理事長(77)は軍縮大使などの外交経験を基に断言する。「現実的な安全保障議論からすれば、日本は米国の『通常兵器の傘』で十分に守ってもらえる」

(2009年7月16日朝刊掲載)

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