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連載・特集

『核兵器はなくせる』 新政権の安保と外交を聞く <1> 大阪女学院大 黒沢満教授

■記者 林淳一郎

 衆院選で「核兵器廃絶の先頭に立つ」とアピールした民主党が、間もなく新政権を発足させる。被爆国日本の安保・外交政策はどう変わるのか。核兵器をなくす道筋をどう描くのか。その課題と展望を識者や政治家に聞く。

  ―政権交代により日本の外交は変わると思いますか。
 米国の核抑止力に依存してきた従来の政策を変えなければならない。すぐに「核の傘」から抜け出すのは難しいかもしれない。だが、米国の安全保障戦略における核兵器の役割を低下させるため、同盟国の側からの提言が必要だ。

  ―具体的には。
 核兵器の先制不使用宣言がその一つ。オバマ米大統領は4月のプラハ演説で直接は言及しなかったものの、核兵器の役割低下については触れた。日本が核抑止力を求め続ける限り、「核兵器のない世界」を提唱するオバマ政権の足を引っ張ることになる。

 日本と同様に米国の「核の傘」の下にあるドイツやイタリアなどとの連携も重要になる。核抑止力に頼ってきた国々が核軍縮への強い意志を示し、結束すべきではないか。日本は唯一の被爆国として中心的な役割を果たす立場にある。

  ―北朝鮮対策をはじめアジアの安全保障をどう図るべきですか。
 日米同盟の強化一辺倒ではだめ。アジア外交を重視しなければならない。日本はこれまで中国を脅威とみてきた。敵対意識を持てば相手国は軍事力の実態を隠そうとする。一方で米国は、パートナーとして中国と付き合おうとしている。協調による信頼醸成がなければ軍縮は進まない。

 北朝鮮の核問題も、対話のほかに解決策はない。米朝協議の一方で、朝鮮半島の非核化を目指す6カ国協議を捨ててはならない。その延長線上に、民主党がマニフェストに掲げる「北東アジア地域の非核化」がある。

  ―社民、国民新党との連立協議への注文は。
 在日米軍基地の在り方など各党の主張に隔たりはある。だが、協議を長引かせるのは得策ではない。米国などとの首脳会談も近く始まる。被爆国がどんな姿勢を示すかを注視している世界に向け、早く政策を示すべきだ。

 国是の非核三原則の厳守も鍵を握る。日本は諸外国から核武装の疑いをかけられている。三原則の法制化は一つの道。米艦船による核の持ち込みをめぐる「密約」問題も究明し、これまでのあいまいな非核政策をあらためることが肝心だ。

 くろさわ・みつる
   1945年大阪市生まれ。大阪大大学院修了。同大学院国際公共政策研究科教授などを歴任。専門は軍縮国際法。今年4月設立の日本軍縮学会で会長も務める。

(2009年9月8日朝刊掲載)

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