×

連載・特集

『核兵器はなくせる』 新政権の安保と外交を聞く <5> ピースデポ特別顧問 梅林宏道氏

■記者 林淳一郎

  ―民主党は「核兵器廃絶の先頭に立つ」と訴えてきました。新政権に何を求めますか。
 核拡散防止条約(NPT)はかけがえのない国際条約。だが、こればかりに頼ってはいけない。核兵器がいかに世界の安全をゆがめているかに触れていないからだ。なぜ核兵器は駄目なのかを人道的に説明できる国は、原爆の被害を知る日本しかない。まず、このことを自負してほしい。

 日本政府の「立ち位置」を明確にすることだ。これまでは官僚が仕上げる政策に沿っているだけで、政治の側の積極性は見られなかった。「唯一の被爆国だから核兵器廃絶を目指す」という決まり文句では説得力を持たない。原爆投下に対し、非難よりも和解の態度をとってきた日本の考えをいま一度、新政権で醸成してほしい。核兵器に対するスタンスをしっかり固めたうえで、削減や廃絶に向けた具体的政策を立てるべきだ。

力対力は限界

 ―急ぐべき課題は。
 年内に防衛計画大綱の見直しが予定されている。来年は日米安保条約改定50年の節目でもある。米国も対話の構えを見せている。とりわけ核抑止力をめぐり、日本のイニシアチブで対話のテーマとすることが急務だ。

 マニフェスト(政権公約)は4年間を想定した目標だが、安保・外交は急ぐものと中長期的なものがある。まず政権内や党内の基本姿勢を固めてほしい。

  ―核抑止力をめぐっては肯定論も根強くあります。新政権はどう対応すべきだと考えますか。
 米軍の通常兵器による攻撃力で十分だから日本は核抑止力に頼らなくてもいい、との考え方がある。だが、どうだろうか。力対力の安全保障は、結局は軍事バランスの方程式であり、限界がある。

 にらみ合う地域の外交で大切なのは、核兵器がなくても安全な仕組みをどうつくるかだ。非核兵器地帯の創設はその一つ。通常兵器を含めた軍縮を同時に訴えていく行動が求められる。

依存度下げる

  ―民主、社民、国民新党の連立協議では在日米軍基地の見直しも焦点でした。どう考えますか。
 これまで、米軍の関与を減らして自衛隊で穴埋めする、といったパワーバランスの議論に陥りがちだった。そうではなく、安全保障上、軍事力の役割をこれ以上拡大しないことに着目すべきだ。

 法的規制や国際合意を基に軍事力への依存度を下げ、地域軍縮のプロセスを描き、その実現を模索する必要がある。その中で米軍再編の今後を語るべきだろう。

 うめばやし・ひろみち 
 東京都立工科短大助教授などを経て1997年、ピースデポ(現在NPO法人)を創設した。核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の東アジアコーディネーターも務める。

(2009年9月14日朝刊掲載)

関連記事
『核兵器はなくせる』 新政権の安保と外交を聞く <4> 前廿日市市長 山下三郎氏(09年9月15日)
『核兵器はなくせる』 新政権の安保と外交を聞く <3> 社民党政審会長 阿部知子氏(09年9月14日)
『核兵器はなくせる』 新政権の安保と外交を聞く <2> 民主党衆院議員 鉢呂吉雄氏(09年9月11日)

年別アーカイブ