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連載・特集

核兵器はなくせる 第7章 再出発のとき <1> 全会一致

■記者 金崎由美

5保有国も廃絶決意 安保理 現実論では溝

 核兵器「ゼロ」に向け、国際社会は再び動き始めた。国連安全保障理事会首脳級特別会合は先月、廃絶への決意を全会一致で決議した。外交デビューの場となった被爆国の新リーダー、鳩山由紀夫首相の姿もそこにあった。もはや夢物語ではなく、現実に手が届くゴールが見えてきた廃絶への道。再スタートを切った世界と日本の動きを追う。

 物々しい警備が醸し出す緊張感が、一瞬のうちに高揚感に変わった。9月24日朝、米ニューヨークの国連本部。安保理会合で、世界の首脳15人がそろって挙手した瞬間だ。

 「賛成15票。決議1887として全会一致で可決されました」。議長を務めたオバマ米大統領の太い声が響く。後ろに座ったクリントン米国務長官はそれまでの厳しい表情を緩め、笑顔で何度もうなずいた。

「拡散生む原因」

 決議1887は、核兵器のない世界に向けた条件を構築する決意をうたう。核超大国である米国が提出し、いずれも核保有国の5常任理事国も含め全会一致だった意義は大きい。

 国連本部ではこの日、廃絶実現への課題の一つである包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進会議も始まった。両会場間を移動し、安保理決議を直接見守った潘基文(バンキムン)事務総長は「歴史的な瞬間だ。新たな未来への再出発となる」。左隣のオバマ大統領に目をやり、万感の面持ちで歓迎の言葉を口にした。

 決議の採択後、各国首脳は5分ずつ発言の機会を与えられた。

 ウガンダのムセベニ大統領はアドリブで切り出した。「核兵器を保有する国があること自体が、他国もほしがる原因となっていることは明白だ。核保有こそが核拡散を引き起こす」。非常任理事国10カ国のうちベトナム、コスタリカなど非核地帯条約に加盟する6カ国はそろって、保有国の責務を口にした。

「被爆国の責任」

 その保有国の一角を占めるフランス。サルコジ大統領は時折、指で机を突き、用意した原稿にはほとんど目をやらずに熱弁を振るった。「未来を語るのはいい。しかしその前に現在の問題がある」。自国の核保有には一切触れず、核開発を進めるイランや北朝鮮に向けて非難の声を上げた。

 そして皮肉にも安保理決議の直後、イランが2カ所目のウラン濃縮施設を建設していることが明るみにでた。

 理想と現実との距離をさらに埋め、核兵器「ゼロ」へのビジョンを国際社会はどう共有し、何から実行していくのか。

 安保理首脳級会合では鳩山首相も高らかに明言した。「唯一の被爆国の道義的責任」として「核兵器廃絶の先頭に立つ」。その新政権の具体的な政策と行動が重大な鍵を握る。

(2009年10月4日朝刊掲載)

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