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連載・特集

核兵器はなくせる 第7章 再出発のとき <2> 新政権

■記者 金崎由美、林淳一郎

鳩山演説 廃絶への一歩 政治主導が実現の鍵

 読み上げていた手元の英文原稿から一瞬、顔を上げた。「自らの目と耳で核兵器の悲惨さを心に刻んでほしい」。鳩山由紀夫首相は淡々と、各国のリーダーに被爆地訪問を呼び掛けた。

 米ニューヨークの国連本部で9月24日にあった安全保障理事会首脳級特別会合。約8分間におよぶ発言で鳩山首相は、今夏の自らの広島・長崎訪問にも触れた。「今日もなお、放射能の被害に苦しむ人々の姿を見て私は心が詰まるのを禁じ得ませんでした」

 民主党本部によると「原稿は首相自らが書いた」という。今回の渡米前、党核軍縮促進議員連盟の国会議員たちは首相に、核兵器廃絶に絡む内容を国連演説にきっちり盛り込むよう要望した。連立政権のパートナーである社民党の福島瑞穂党首は「オバマ大統領のプラハ演説以上に格調高く」と求めていた。

 一夜明けた被爆地広島。核兵器廃絶への決意を示し、各国首脳の被爆地訪問を促した鳩山演説に、被爆者たちは「日本外交の変化の兆し」と喜んだ。秋葉忠利広島市長も緊急の記者会見を開き「未来の世代のために、平和な世界をつくるために、日本外交を大きく変えた」と評価した。

「核の傘」触れず

 ただ鳩山演説は、非核三原則の堅持は誓ったものの、米国による「核の傘」の扱いには触れなかった。

 政権与党から下野した自民党。「唯一核兵器を使った米国のオバマ大統領が『核なき世界』といい、使われた日本の鳩山首相が『核廃絶の先頭に立つ』と言ったのは、話としては非常に美しい」。国会に近い党本部で、石破茂政調会長はおだやかな口調で話し始めた。

 防衛相も経験し、「核の傘」は必要との立場を取る。「歴史の中で、美しい話が現実として成果が表れたことはない。そこに至る道のりをどう描けるのか」と皮肉交じりにけん制する。

外交面で具体策

 安保理首脳級会合と同じ日、国連本部内で開かれた包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議。岡田克也外相は来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、CTBTの発効要件でありながら署名や批准をしていない9カ国にハイレベル特使を派遣するなどのイニシアチブを発表した。外交面で早速、具体策を表明した形だ。

 では「核の傘」問題を含め、国内議論をどう醸成していくか。「核兵器のない世界という大きなビジョンのもとで政策実現にこだわることだ。とかく官僚は物事を変えないようにするだろうが、そこを乗り越えないといけない」。米シンクタンク「新アメリカ財団」のジェフリー・ルイス核戦略・不拡散ディレクターは、新政権の「政治主導」が不可欠とみる。

CTBT
 大気圏内や宇宙、地下などで、あらゆる爆発を伴う核実験を禁止する。1996年に国連総会で採択。現在181カ国が署名、日本を含む150カ国が批准している。発効には研究・発電用の原子炉を持つ44カ国の批准が必要で、米国、中国、インドネシア、イラン、エジプト、イスラエルの6カ国が未批准。北朝鮮、インド、パキスタンの3カ国は署名もしていない。発効促進会議は99年から2年ごとに開催。

(2009年10月5日朝刊掲載)

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