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連載・特集

核兵器はなくせる 第7章 再出発のとき <5> 被爆地から

■記者 吉原圭介、林淳一郎

世論喚起へ署名募る 具体的行動こそ原動力

 核兵器「ゼロ」を自分たちでつかみ取ろうと、被爆地広島の動きがあわただしさを増してきた。

 広島市中区の原爆資料館前で9月28日、被爆者2人が車に乗り込み、島根県に向けて出発した。国連安全保障理事会首脳級特別会合での核兵器廃絶に向けた決議から4日後。国際的な潮流に合わせ国内世論をさらに喚起するため、市民団体「Yes!キャンペーン実行委員会」が被爆者とともに進めるキャラバンだ。

 自治体を回り、2020年までの廃絶実現を目指して平和市長会議(会長・秋葉忠利広島市長)が提唱する「ヒロシマ・ナガサキ議定書」への賛同署名を集める。

鳩山政権に望み

 国内1772市町村のうち現在、議定書に賛同署名しているのは400に満たない。今後の東京や神奈川、名古屋などに続き、日本被団協と連携して全国規模に発展させたい延本真栄子代表(61)は「自治体の総意で政府を動かしたい」。被爆国日本政府が主体的に、国際社会へ議定書を提案するよう求める。

 「新政権になって望みは出た」。平和市長会議の事務局を務める広島平和文化センターのスティーブン・リーパー理事長(61)は期待を膨らませる。鳩山由紀夫首相は就任前、いち早く秋葉市長との面談に応じ、今回の国連演説では各国首脳に被爆地訪問を呼び掛けるなど、従来の政権と異なる「風」を感じるからだ。

 首脳に先駆ける形で今月4日、広島を訪れた米国のジョン・ルース駐日大使。原爆資料館を1時間かけて見学し「力を合わせて核兵器なき世界の平和と安全保障を追求することの大切さを強く感じさせられた」と記帳した。秋葉市長夫妻との会食では「オバマ大統領に広島での体験を伝えたい」と語ったという。

「扉は開かれた」

 17日からは広島市で、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)の最終会合もある。米国やロシア、英国、フランス、中国、インドなどから委員が訪れる。被爆者証言を聞く場も設けられる予定で、廃絶に向けた論議が被爆地で深まるとの期待が高まる。

 そんな国際機運の盛り上がりに、広島県被団協(坪井直理事長)の木谷光太事務局長(68)は「扉は開かれた。次は、その扉を閉ざさないための努力だ」。自分たち被爆者組織をも鼓舞する口調に、被爆地や被爆国の具体的な行動こそが原動力、との信念がこもる。

平和市長会議
 1日現在で世界134カ国・地域の3147都市が加盟。2020年までに核兵器を廃絶するため「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を提唱している。新たな核兵器の取得や使用につながる行為の即時停止と法制化、核兵器の廃絶と、生産や運搬、発射などのシステムの廃止を盛り込み、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議での採択を目指す。

(2009年10月9日朝刊掲載)

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