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急浮上 平和五輪 <中> 直面する課題

■記者 五輪問題取材班

選手・観客 どう収容

 「巨大な建造物を建て続ける時代なのか。仮設であったり、大会後には別の施設として使えたりしていい」

 11日、2020年夏季五輪招致に向けた検討開始を発表した記者会見で、広島市の秋葉忠利市長は強調した。同じ被爆地である長崎市などとの複数都市開催は、巨額の経費負担を分担する狙いもある。同時に、「商業主義ではない、平和の祭典である五輪を取り戻す」という秋葉市長の理想がにじむ。

 現実が重くのしかかる。200カ国・地域以上の選手、観客を迎える夏季五輪。2020年招致を検討する広島市の大きな課題が宿泊施設の収容能力だ。

 リオデジャネイロ開催に決まった2016年夏季五輪で、国際オリンピック委員会(IOC)は立候補都市に「半径50キロ圏内に4万室の確保」を求めた。広島市内は1万1千室(2007年時点)にとどまる。

 マツダスタジアム(新広島市民球場)に近いJR広島駅北口では、客室234室の外資系高級ホテルの完成に向けつち音が響く。新たなホテル進出の可能性もあるが、「それでも少なすぎる」と市関係者は認める。

 競技施設を取り巻く要求も厳しい。東京オリンピック・パラリンピック招致本部の根本浩志招致戦略課長は「28競技会場の規模はIOCが細かく基準を設けている」と話す。

 例えば収容人数は陸上競技場が6万人が最低ライン。東京は10万人収容のスタジアム建設を計画していた。

 1994年に開催された広島アジア競技大会のメーン会場だった広島ビッグアーチ(安佐南区)は収容人数が5万人。招致検討のパートナー長崎市は「現状の施設では国体の開会式もできない」(田上富久市長)のが実情だ。

 アジア大会はまた、広島市にとって苦い経験でもある。2003年に出した財政非常事態宣言。大会準備と開催に約289億円の経費がかかり、うち約80億円を「行政負担」で背負った。秋葉市長は99年の就任以来、財政再建に取り組むが、2009年度末の市債残高見込みは9652億円に上る。

 東京都は招致活動費150億円のうち100億円を都予算の一般財源から工面した。さらにスタジアム建設や基盤整備・運営などで3844億円の拠出を国や民間と分担する予定にしていた。広島市の本年度一般会計当初予算額は約5500億円。東京都の約12分の1でしかない。

 「1都市開催」を定めたIOCの五輪憲章。複数都市による開催は、憲章という高い壁を承知のうえで「財政的な活路が開ける唯一の手法」として広島、長崎両市長が熟考した策にほかならない。

 巨額の経費負担を分かち合うパートナーとしては、新幹線で直結している福岡市や北九州市などが想定される。

 「今までのスタイルの五輪なら被爆地で開く意義はない、というのが秋葉市長の決意」と広島市幹部。近く設置する招致検討委員会に、何都市が加わるかが最初の焦点となる。

五輪の資金計画
 東京都の招致計画では、仮設競技場整備や大会運営などの組織委員会予算は3100億円。国際オリンピック委員会分配金▽国内スポンサー収入▽チケット収入―などを充当し、赤字の時以外は公的負担を想定していなかった。一方、新設するオリンピックスタジアム、改修する東京辰巳国際水泳場など恒久的な施設、都市基盤の整備などの費用3844億円は都や国、民間が負担を予定していた。昨年の北京五輪の大会運営費は約2140億円。練習施設などを含めた会場の総建設費は約2040億円。

(2009年10月15日朝刊掲載)

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