×

連載・特集

原爆症認定 見直しの視点 <上> 基準

■記者 岡田浩平

「厳格線引き」に批判 司法判断と隔たりも

 被爆者の病気やけがの原因を原爆と認め、国が援護策を講じる原爆症認定制度。認定基準の緩和を促した集団訴訟は敗訴原告救済の基金法成立で終結へ向かい、今後は制度の抜本見直しが焦点となる。年明けにも始まる国と日本被団協などの協議を前に制度の課題を検証する。

 基金法が成立した1日、原告が厚生労働省で開いた記者会見。東京都原爆被害者団体協議会(東友会)の飯田マリ子会長(78)は、残された問題を指摘した。「3、4年も待って認定を却下された被爆者は裁判に参加できず基金でも救済されない。取り消しを求める運動を強めたい」

 国は昨年4月に審査の基準を改定。とりわけ訴訟で争われた病気と原爆放射線との関連(放射線起因性)の有無についての判断は、原告が却下された当時に比べ大きく緩和された。がんなど七つの病気は被爆条件を満たせば「積極認定」し、それ以外は総合判断で認定している。

 ところが、積極認定の対象ながら「放射線起因性のある」と条件付けた白内障と心筋梗塞(こうそく)について、爆心地から2キロ余りの近距離で被爆した事例さえ却下されたことが東友会の調査で分かった。飯田会長は「放射線起因性を厳格に求める旧基準のような線引きだ」と批判する。

 司法判断と認定行政の隔たりも依然ある。基準緩和後、先月末まで12度の判決が新基準で未認定の原告を原爆症と認めた。全国原告団によると、判決が40種近い病気を認めたのに対し、国の審査では積極認定対象の七つにとどまる。

 月1度、総合判断のために開かれる厚労省の被爆者医療分科会は11月、212件を却下した。9月は100件、10月は135件でペースは上がっている。却下の具体理由は示されない。

 「なぜ自分の病気が原爆のせいだと認められないのか」。原告に共通する思いは、被爆者の間に芽生えている。申請した約8千人の審査を急いでも、被爆者が納得する認定制度にならない限り、新たな訴訟につながる。

 被団協や原告団は、国との協議で速やかに総合判断の指針の明示や放射線起因性を厳密にとらえる要件の撤廃を求める構えだ。全国原告団の山本英典団長(76)は「疑わしきは被爆者のために、の精神を徹底すれば温かみのある制度になる」と指摘する。

原爆症認定制度
 被爆者援護法に基づき病気と原爆放射線との関連(放射線起因性)、治療の必要性(要医療性)を専門家が審査し厚労相が原爆症と認定する。集団訴訟の原告が却下された当時の基準は推定被曝(ひばく)線量に年齢などを加味する「原因確率」に依拠し、認定は被爆者の1%に満たなかった。2008年4月からの現行基準は被爆地点が爆心地から3.5キロ以内▽原爆投下から100時間以内に爆心地から2キロ以内に入市―などの条件にあてはまるがんなど七つの病気を積極認定。それ以外は総合判断で認定している。

(2009年12月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ