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連載・特集

核兵器はなくせる 「核の傘」をたたむ日 <6>

■記者 「核兵器はなくせる」取材班

6ヵ国協議 核放棄へ対話促進を

 被爆国日本を含む北東アジアは今も冷戦構造が残る。力と力の対抗が悪循環を生むジレンマから脱しきれていない。中心にあるのは北朝鮮だ。2003年に始まった6カ国協議は6年を経てなお迷走を続ける。北朝鮮の「瀬戸際外交」にほかの5カ国は翻弄(ほんろう)され、結果的に核兵器開発に歯止めをかけられずにきた。北朝鮮が核開発を放棄するには、6カ国が歩調を合わせ信頼を紡ぎ直すほかに糸口はないだろう。それは「核の傘」に頼る被爆国に、その政策を見直す意思と行動を問いかける。

北朝鮮の復帰 鍵は「安保」

 年の瀬が近づいた今月初め、米国のボズワース北朝鮮担当特別代表が北東アジアを駆け回った。6カ国協議から離脱している北朝鮮に復帰を促すためだ。北朝鮮側はその後、朝鮮中央通信を通じ「協議再開へ共通の認識に達した」とのメッセージを発した。

 6カ国協議はほぼ1年間にわたり、行き詰まりが続く。この間、北朝鮮は核実験やミサイル発射を強行。核放棄とは真逆の方向に進む中、今回の米朝協議はどれほど、かじを切り戻せたのか―。

 「北朝鮮は5月の核実験で手を出し尽くした。その後は対話の局面に移っている」。島根県立大の福原裕二准教授=朝鮮半島地域研究=はこう分析し、北朝鮮を除く5カ国の出方次第で協議再開の可能性は高いとみる。

 歴史はしかし、対話の再開がゴールではないことを示す。

 例えば2007年に合意した「核施設の無能力化」。後戻りできない非核化への一歩とされ、翌2008年に北朝鮮も核施設付属の冷却塔を爆破するなどした。だが協議の決裂などが引き金となり、再び核開発へと振れた。その結果、全米科学者連盟(FAS)の今年10月時点の推定によると、北朝鮮は「10個未満」の核弾頭を保有するに至った。

 「核保有は自衛のため。体制の維持や安全保障が担保されていないと考えているからだ。日本も米国も安保の視点からアプローチしないと非核化の達成は難しい」と福原准教授は指摘する。米国やその核兵器に頼る日本が姿勢を転換しない限り、北朝鮮の出方も変わりそうにない。

 その米国。オバマ大統領は11月中旬、韓国を訪れ、北朝鮮との非核化交渉について「過去のパターン」は繰り返さないと強調した。  同じころクリントン国務長官は訪問先のアフガニスタンで、取材に応じる形で北朝鮮向けにメッセージを送った。北朝鮮の核放棄に対し、米国は(1)米朝関係の正常化(2)朝鮮戦争の停戦協定に代わる平和協定(3)経済支援―で対応するとした。

 この3項目の順序が微妙なポイントだ。これまで上位にしていた経済支援を後ろに下げたのは、ほかの2点を重視する姿勢と読み取れる。

 今月初めに広島市内であった国際シンポジウムで、元韓国統一相の丁(チョン)世鉉(セヒョン)氏がこの変化に注目した。

 「北朝鮮は経済支援より米国との平和協定や体制の保証を望んでいる。それが核カードの目的」と丁氏。「これらが保証されれば、北朝鮮は核プログラムを破棄していくだろう」と指摘した。

 年が明け、5月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議がある。それまでに北朝鮮の核問題で何らかの結果を引き出すことができるか。それは北東アジアにとどまらず、世界の核軍縮・不拡散の行方も左右する。


6ヵ国協議の課題と展望は
前日朝国交正常化交渉政府代表 美根慶樹氏に聞く

 6カ国協議の課題と展望について、2007年から今年4月まで日朝国交正常化交渉政府代表を務めた美根慶樹氏に聞いた。

米国の政策見直すとき

 6カ国協議は多国間対話の場として有益だが、最大の目的である北朝鮮の非核化については失敗を繰り返してきた。その経緯を踏まえ、在り方を見直すときではないか。

 北朝鮮の要求は体制の存続と安全保障の確保で一貫している。ところが、北朝鮮が最も恐れる米国がこれまで北朝鮮を「悪の枢軸」とみなし、核攻撃も辞さない構えだった。北朝鮮が6カ国協議に参加しながら、その裏で核兵器開発をやめなかったのはそのためだ。

 米国の政策転換が鍵を握る。重要なのは北朝鮮が核兵器を放棄すれば核攻撃しない「消極的安全保障」の確約だ。2005年の6カ国協議で米国は北朝鮮を核攻撃しないとしたが、それだけでは保障がない。法的拘束力を伴わないと北朝鮮は信用しないだろう。何よりも核兵器を持つ根拠をなくすことが先決だ。

朝鮮戦争に平和協定を

 今なお停戦状態の朝鮮戦争も終結させなければならない。当事者の米国と北朝鮮が平和協定を結び、そこに消極的安全保障を盛り込めばいい。法的拘束力を持たせることができ、米朝関係の修復につながる。中国も北朝鮮の核兵器保有に神経をとがらせているから歓迎するはずだ。

核抑止力は悪循環の源

 日本や韓国にもチェンジが求められる。米国の「核の傘」に頼る安保政策は、北朝鮮からすれば大変な脅威だろう。背後に超大国の核戦力があるのだから。

 確かに日本は核保有国の中国やロシアに囲まれているが、自らが「核の傘」に依存しない方向に進まないと、結局は北朝鮮の核放棄実現に向かわない。核抑止力にこだわる日本などの姿勢は、米国が核戦略を変えない理由にも利用されてしまう。「同盟国が核兵器で守ってほしいというのだから」と。

最終目標は国交正常化

 6カ国協議が足踏み状態の今、北朝鮮への対応は制裁という「圧力」だけになっている。対話の道を開かないと、北東アジアの信頼関係は築けない。

 日朝や米朝など2国間の国交正常化を最終目標に置くのが望ましい。北朝鮮を非核化するとしても、本当にしたのかどうか、核開発を再開しないか、気になるはずだ。一対一の対話が可能になれば、単なる技術的な検証にとどまらない。互いの透明性が高まり、新たな安保の枠組みも描くことができる。

みね・よしき
 1943年兵庫県生まれ。68年東京大法学部卒業後、外務省に入り、軍縮大使や地球環境問題担当大使を歴任した。今年5月からキヤノングローバル戦略研究所特別研究員。


             ◆北朝鮮の核開発と6カ国協議の経過◆
                (日本国際問題研究所資料などを基に作成)

1950年 6月 朝鮮戦争始まる。1953年7月に停戦協定合意
1974年 9月 北朝鮮が国際原子力機関(IAEA)加盟
1985年12月 北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)に加盟
1986年 1月 寧辺の原子炉が稼働
1991年 7月 北朝鮮が朝鮮半島非核化共同宣言を提案
      12月 韓国と北朝鮮が「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」に完全合意。1992年
          1月に文書交換
1992年 2月 米中央情報局(CIA)長官が、北朝鮮は核兵器開発を続行し、数カ月から数年以
          内に核兵器の製造が可能になると推定されると言明
       4月 北朝鮮がIAEAとの保障措置(核査察)協定を批准
       5月 IAEA査察団が北朝鮮入り
1993年 3月 北朝鮮がIAEAの核査察に反発、NPT脱退を国連安全保障理事会に通告
      11月 国連総会が核査察受け入れを促す決議を採択
1994年 2月 北朝鮮が核関連施設7カ所への査察受け入れでIAEAと合意
       3月 IAEAが「寧辺の放射化学研究所での重要な査察が拒否された」との声明を発表
       4月 金日成主席が核兵器保有を否定
       5月 北朝鮮がIAEAの立ち会いなしに実験用原子炉の核燃料棒の交換作業を開始
       6月 北朝鮮がIAEA脱退を米政府に通告
      10月 米国と北朝鮮が、関係改善や北朝鮮の核開発凍結などを定めた枠組み合意
          文書に正式調印
2002年 1月 ブッシュ米大統領が北朝鮮とイラン、イラクを「悪の枢軸」と名指しで非難
       9月 日朝首脳会談で「平壌宣言」
      12月 北朝鮮が核凍結を解除すると発表
2003年 1月 北朝鮮がNPT脱退、IAEAとの保障措置協定の破棄を宣言
       8月 6カ国協議の初会合
      10月 北朝鮮外務省が使用済み核燃料棒約8千本の再処理を終えたと表明
2005年 2月 北朝鮮が「自衛のために核兵器をつくった」と核兵器保有を初めて公式宣言
       9月 6カ国協議。核放棄確約を盛り込んだ共同声明を採択
2006年10月 北朝鮮が初の地下核実験に成功したと発表
2007年 2月 6カ国協議。寧辺の核施設の活動停止・封印、IAEAの査察受け入れ、重油5万
          トン相当の支援開始で合意
      10月 6カ国協議を受け、寧辺の三つの核施設の無能力化とすべての核計画の申告
          で合意
2008年 6月 北朝鮮が寧辺の実験用黒鉛減速炉に付属する冷却塔を爆破
       7月 北朝鮮が中国に提出した「すべての核計画申告」で、プルトニウムを兵器化した
          と記述していたことが判明
       8月 北朝鮮外務省が米国のテロ支援国家指定解除延期を非難し、寧辺の核施設無
          能力化を中断すると声明
      10月 米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除
      12月 6カ国協議首席代表会合で、核検証方法の文書化をめぐって決裂
2009年 4月 北朝鮮が「人工衛星」とするミサイルを発射▽6カ国協議からの離脱を表明
       5月 2度目の核実験
       6月 国連安保理が北朝鮮制裁決議を採択▽ウラン濃縮の着手、プルトニウムの全量
          兵器化を宣言
       7月 北朝鮮が弾道ミサイルを日本海へ連続発射
       8月 クリントン元米大統領が訪朝し、金正日総書記と会談
      12月 米国のボズワース北朝鮮担当特別代表が訪朝


6カ国協議
 北朝鮮の核兵器開発問題を解決するため、日本と米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮の6カ国で設けた多国間協議の枠組み。議長国は中国。2003年8月に初会合を開いた。2005年9月、北朝鮮の核放棄などを盛り込んだ共同声明を採択したが、検証方法の文書化をめぐり昨年12月に事実上決裂した。北朝鮮は今年4月に協議離脱と核開発再開を表明し、5月に核実験をした。

核施設の無能力化
 北朝鮮・寧辺(ニョンビョン)の核施設の稼働停止・封印などに続く第2段階として、核施設を使えない状態にする措置。実験用黒鉛減速炉▽核燃料加工施設▽放射化学研究所(再処理施設)の3施設が対象。「すべての核計画申告」と並んで2007年2月の6カ国協議合意に盛り込まれた。当時、ヒル米国務次官補は「1年間は稼働できなくするのが目的」とした。

(2009年12月27日朝刊掲載)

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