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連載・特集

核兵器はなくせる 「核の傘」をたたむ日 <8>

■記者 「核兵器はなくせる」取材班

安保50年 新たな日米関係議論を

 2010年、日米安全保障条約の改定から50年の節目を迎えた。鳩山由紀夫首相は昨年来、オバマ米大統領との間で「日米同盟を深化させる」点で合意し、「対等な日米関係を目指す」「日米同盟を包括的に見直したい」とも表明する。被爆国日本は原爆投下国との間で、新たな関係をどう構築するのか。そこでは在日米軍基地そして米国の「核の傘」は本当に必要なのだろうか。

 米国のジェームス・ズムワルト駐日首席公使は昨年末、福岡市内であった防衛問題セミナーで、日米安保について講演した。

総勢5万人駐留

 スクリーンに映し出した数字を説明しながら、日米同盟は日本にとってメリットがあると強調していく。イージス艦1隻の建造費は12億ドル(約1100億円)、ジョージ・ワシントン級の空母は50億ドル(約4600億円)。それだけのコストを米国側は負担し、さらに日本や近海に総勢5万人近い兵力を駐留させている…。

 ズムワルト公使は同時に、日米安保条約改定から半世紀の変化をこう表現した。「かつて日本は米国に守ってもらっていた。現在は日本と米国が共同で、日本を守っている」

 その代表例に挙げるのがミサイル防衛(MD)だ。

 敵国の弾道ミサイル発射をレーダーで探知すると、海上自衛隊のイージス艦が迎撃ミサイルSM3を発射し大気圏外で撃ち落とす。失敗すれば航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が地上に近づいた段階で打ち落とす2段階の仕組みだ。

 いずれのミサイルも日米が共同開発した。運用面でもレーダーで得たデータを共有するなど連携している。

 日本政府は昨年12月17日、2010年度防衛関連予算編成についての基本指針を閣議決定した。その新年度予算案には、現在、埼玉県入間市や岐阜県各務原市などの計12高射隊に配備しているPAC3を16に増強することを盛り込んでいる。

 「こんごう」「ちょうかい」のイージス艦2隻に搭載しているSM3についても、3隻目「みょうこう」に試験配備中だ。

 このMDについてズムワルト氏は「米国側の装備も含めて非常に強い防衛網ができた。昨年の北朝鮮のミサイル発射実験の際にも、日米は真の同盟として対処することができた」とする。

 1960年1月19日、日米が調印した改定安保条約は、日本が攻撃されれば米国が守ると定めた。それから半世紀。対ソ防衛のための軍事同盟は現在、アジア・太平洋地域を視野に日本有事の際の日米共同防衛を明確化しただけでなく、米国が中東へ兵力を派遣すれば日本は後方支援するスタイルへと質的変化を遂げている。

 この間、日本は「思いやり予算」などとして米軍駐留コストへの負担を増やしてきただけでなく、アフガニスタンに展開する多国籍軍への給油活動など自衛隊による後方支援・国際貢献の範囲も拡大した。

 一方、駐留米軍の兵力規模やその必要性について国民的な合意はなく、駐留米軍が世界各地で戦闘行動に従事することの是非をめぐる議論が深まったとも言いにくい。MDは膨大な開発コストを伴うばかりか、米国を狙ったミサイルを迎撃すれば集団的自衛権を禁じた憲法を逸脱するとの懸念もぬぐえていない。そして沖縄に米軍基地が集中する構図は何ら変わっていない。

首相 持論を封印

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で揺れる鳩山政権は今後、そうした日米同盟をどう深化させるのだろうか。普段は外国の軍隊がいない「常時駐留なき安保」は、鳩山首相が今は口にせず封印している持論でもある。

 広島市立大広島平和研究所の水本和実准教授は「本来はまず日米関係があり、軍事同盟はその一部のはずだ」と指摘し、日米関係全般の将来についての国民的議論の必要性を説く。さらに「日本政府が自己規制するのではなく、日本を守るのに核兵器はいらないと宣言すること」こそが、原爆投下国と被爆国の関係が深化する契機になるとみる。

<在日米軍の兵力構成(人)>

米陸軍           2729
米海軍           5940
米空軍          12350
米海兵隊        16640
米軍陸上配備兵力合計
           (1) 37659
第7艦隊(海上配備)
           (2) 11283
米軍兵力合計
    (3) {(1)+(2)} 48942
国防総省所属(軍属)
           (4)  5252
在日米軍構成員の家族 
           (5) 43093
合計   (3)+(4)+(5) 97287
※日本人従業員    25499


安全保障の在り方は
日本国際問題研究所 戸崎洋史主任研究員に聞く

 日米安保問題に詳しい日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターの戸崎洋史主任研究員に聞いた。

「専守防衛」脅威はない

 東西冷戦構造が崩れ、日本に旧ソ連が攻めてくる懸念はなくなった。だが、アジアには北朝鮮の核武装や中国の軍拡など緊張要因がある。その中でMDやテロ・ゲリラ対策、島しょ防衛など、これまでとは質の違う防衛力が求められている。まだそれは発展途上だろう。

 日本の装備は北朝鮮に比べて近代的だ。ただ日本は専守防衛をうたい、弾道ミサイルや爆撃機など他国の領域を攻撃する能力を保有していない。その意味で(在日米軍以外の)日本独自の防衛力は中国や北朝鮮にとって、脅威とは思われていないかもしれない。逆に核武装論など日本の安保政策の重大な変化には敏感に反応するだろう。

非核政策の継続が大事

 もちろんヒロシマ・ナガサキの経験を持つ日本が非核政策を継続することは大事だ。日本がその非核政策を変更することは、これまで積み上げてきた国際的な信用を一気に崩してしまうし、世界的な核軍縮の推進もきわめて難しくするだろう。

 ただ気をつけないといけないのは、「核兵器がない世界」イコール「平和な世界」ではないこと。核抑止がない中で、逆に通常兵器を用いた武力衝突の可能性が高まることも考えなければならない。

 冷戦期の世界、あるいは冷戦後の北東アジアで、米国による核抑止が安定の維持や紛争発生の抑制に一定の効果があったことは否定できない。それを認めた上で、新しい時代にどうするかを考える出発点にするべきだ。

漸進的かつ着実に削減

 日米同盟の下で日本が「核兵器では守ってもらいません」と宣言したとして、例えば北朝鮮や中国が素直に信じるだろうか。また米国が「守ってくれと言っておいて、その手段にまで口を出すのか」と言わないだろうか。日米同盟が引き続き日本の安全保障にとってきわめて重要だとすれば、ただちに「核の傘」から出るという選択はあまり現実的ではない。

 核兵器がなくても安全が保てるような地域にする必要がある。軍事力への依存を地域全体で減らしていくことが大切だ。同時に核兵器を漸進的に、しかし着実に削減していくこと。この2本柱を進めることが現実的で大事な道筋だろう。

とさき・ひろふみ
 1971年鹿児島市生まれ。大阪大大学院博士課程を経て2007年から現職。専門は軍備管理、ミサイル防衛問題。

日米安保の改定と再定義
 1951年9月に日米が調印した旧安保条約を改定する形で60年1月に調印、同年6月に発効したのが現安保条約。計10条からなり、旧条約と同様に米軍の日本駐留を認めるとともに、米国が日本の防衛義務を負うと位置付けた。条文には核兵器や核抑止、「核の傘」などの文言はない。
 東西冷戦終結後の世界情勢に合わせ、日米両国は96年4月の安保共同宣言で、日本の防衛だけでなく「アジア太平洋地域の平和と安定」に寄与すると日米同盟を再定義した。これに基づき99年5月に周辺事態法が成立。自衛隊が米軍を後方支援する枠組みが出来上がった。

(2010年1月10日朝刊掲載)

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