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連載・特集

核兵器はなくせる 第10章 火種の中東 <1> イスラエルの核

■記者 吉原圭介

開発・保有 公然の秘密 砂漠の一角 厳戒態勢

 中東の三つの国を訪ねた。核兵器の保有が確実視されているイスラエル、国際社会の非難をよそに自前のウラン濃縮にこだわるイラン、そして大量破壊兵器の一掃を主張するエジプト。戦火の絶えない中東の行方は、世界の核情勢の今後を左右しかねない。それぞれの思惑を現地に探った。

 イスラエルの首都エルサレム。乗り合わせたタクシーの運転手に「この国は核兵器を持っているのか」と聞いてみた。

 「そりゃ持ってるよ。秘密でもなんでもない。ディモナにあるんだ」。ハンドルから手を離し、雄弁に語った。

 そのディモナはエルサレムの南約80キロ、ネゲブ砂漠にぽつんとある小さな町。中心部からさらに車で東に数キロ走ると、岩肌が露出する荒涼とした風景の中に、高さ3メートルほどの柵が延々と続いていた。監視カメラがあった。写真撮影禁止マーク、「軍事施設」との看板も見えた。その柵のはるか向こうに、銀色に光る施設があった。

 1986年10月、ここで働いていた元技師モルデハイ・バヌヌ氏が、隠し撮りした施設内部写真を英紙に提供。核兵器開発・保有の拠点だと暴露した。

 イスラエルが現在保有する核弾頭数は、全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセン氏の推定で約80個に上る。核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、核兵器の保有を公式には認めないため、国際社会は「事実上の保有国」と回りくどい言い方で呼ぶ。

 そしてイランの核開発には敏感な米国は、イスラエルの保有を長らく不問に付してきた。

 なぜ核保有をするのか―。エルサレムにあるヘブライ大の政治学教授シュロモ・アロンソン氏が説明する。「ユダヤ人に対する大量虐殺の歴史、イスラエル建国時(1948年)の周辺国との対立から、初代の首相は既に核保有を考えていた。資金と技術がそろった時点で実行に移したんだ」

 多くのアラブ諸国はイスラエルの存在自体を認めようとしない。ユダヤ教の国からすれば、周辺のイスラム教国に対抗するための安全保障措置が核兵器という理屈になる。実際、73年の第4次中東戦争でエジプトに攻められ、劣勢に立った際には核兵器使用を検討したとされる。

 イスラエル政府は過去も現在も、核兵器保有を肯定も否定もしない「あいまい政策」を取り続ける。公式見解を直接聞いてみたいと、外務省に向かった。

(2010年4月27日朝刊掲載)

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