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連載・特集

核兵器はなくせる 第10章 火種の中東 <3> イランの主張

■記者 吉原圭介

軍事利用 教義で禁止 米は「疑惑ぬぐえぬ」

 「イランが大量破壊兵器を持たない理由がある。イスラム法(イスラム教に基づく法体系)のハラーム(禁止行為)だからだ」

 イラン政府が主催し、今月17、18日に約60カ国の政府関係者や研究者たちが首都テヘランに集まった国際会議「軍縮と不拡散―大量破壊兵器のない世界」。分科会でイランのシンクタンク研究者がとうとうと語った。

 会議のスローガンは「核エネルギーは皆のために、核兵器は誰のためでもなく」だった。その言葉からも、国際社会からの疑惑の視線をよそに、平和利用だとして自国でのウラン濃縮にこだわるイラン政府のスタンスがうかがえる。

 質問が出た。「平和利用はハラームではないのか。(やはりイスラム教の国である)パキスタンの核兵器保有はどうなるのか」

 イランの研究者は「平和利用は禁じられていない。自衛目的の軍事研究は大事なことだ」と答えた。パキスタンの政府関係者は血相を変え「核保有はわれわれが主導したのではない。インドが先に持ったのが原因だ」と抗弁した。

 イスラム法学者による統治体制をとるイラン。厳格なハラームに基づき核兵器開発はしないと繰り返しても、疑惑はぬぐえないとする米国は、イランと北朝鮮を核攻撃の照準に据え続ける。さらに中東では、事実上の核兵器保有国であるイスラエルの存在が、「自衛のため」を口実にした核開発競争を招きかねない構図が厳然とある。

 国際会議の会場の一角で、非政府組織(NGO)のイラン化学兵器被害者支援協会が、ヒロシマ・ナガサキの原爆被害をパネル展示していた。イラン・イラク戦争(1980~88年)で毒ガス兵器の被害に遭ったイランは、中東でもとりわけ大量破壊兵器に対する嫌悪感が強いとされる。

 確かに、イラン政府要人の多くは来日すると被爆地広島を訪れ、原爆の被害に触れる。ただ「原爆投下国の米国を許してはならない」と反米感情をあらわにすることも少なくない。

 支援協会国際部長のシャリアール・ハテリ医師は言う。「政府は平和利用だと言っている。われわれもそう信じる。化学兵器の恐ろしさを知っているイランが、大量破壊兵器を造ることはない。少なくとも毒ガスの被害者が生きている間は、あり得ない」

 国際会議開催を通じ平和利用に対する内外の賛同を得ようとしたイラン政府。だが、軍事利用の疑惑が一掃できたとはいえない。

(2010年4月29日朝刊掲載)

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