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連載・特集

核兵器はなくせる 第10章 火種の中東 <4> 「脅威」の実像

■記者 吉原圭介

地域の安定・信頼阻む 米の「二重基準」背景

 イランの首都テヘラン。中心部に立つ政府系のビル壁面いっぱいに、どくろと爆弾をあしらった巨大な「星条旗」が描かれていた。国民の反米感情を示すのは、1979年11月にイラン人学生によって占拠された旧米大使館にも。悪魔の顔をした「自由の女神」が落書きされていた。

 そのテヘランで17日にあった国際会議「軍縮と不拡散―大量破壊兵器のない世界」の開会式で、アハマディネジャド大統領は「最初の核兵器は米国によって造られ、そして使われた。この非人道的な行動と手段が猛烈な核開発を引き起こした」とあいさつした。

 敵対するイスラエルの「核」保有を黙認しながら、イランの核開発には厳しく対応する米国の「二重基準」への怒りが背景にある。

 そのイスラエル。政府は4月初めから、国内に住むすべての人に防毒マスクを配布している。化学兵器を持つとされるシリアの存在を意識した措置だ。外務省のアンディ・デービッド副報道官は「建国から60年以上たつのに、国連加盟国の3分の1は、わが国が存在する権利を認めていない」とアピールする。

 副報道官は、レバノンを中心に活動するイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラや、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの存在を挙げ「資金を与え、兵士を訓練し、武器を供給しているのはイランだ」と非難する。

 敵対視し合う両国をどう見ているのか、エジプトで聞いてみた。

 来年の大統領選に立候補を表明した元外務事務次官アブドラ・アラシャール氏はカイロの自宅で、イランの肩を持った。

 「ユダヤ人は3千年前にここに住んでいたと主張して国をつくった。そんな国際法上許されない行為をアラブは受け入れた。なのに今度は、パレスチナも欲しいという。イスラエルは西洋が中東に送り込んだ(地域を不安定にするための)わなだとイランは言っている。私も同感だ」

 同じカイロでも新聞社系シンクタンク「アルアハラム政治戦略研究所」のエマード・ガード研究員はむしろ、イランの危険性を問題視する。  「イスラエルは理屈が通らないことはしない。核兵器を使うのは自国の滅亡を覚悟したときだけだろう。それよりも、何をするか分からないイラン現政権が進める核開発への対策を急ぐべきだ」

 2人の意見のどちらに同調するにせよ、「核」の存在が地域をいっそう不安定にし、信頼醸成を阻んでいることは間違いない。

(2010年4月30日朝刊掲載)

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