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連載・特集

核兵器はなくせる 第10章 火種の中東 <6> NPTの行方

■記者 吉原圭介

イラン核開発 対応焦点 イスラエル加盟課題

 3日開幕する核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、中東の核問題が焦点の一つとされる。事実上の核兵器保有国であるイスラエルはNPTに加盟せず、一方でイランはNPTに加盟したまま軍事利用を進めている疑いがある。そんな中東の今後が、NPT体制の行く末を占うからだ。

 民間シンクタンク、エジプト外交評議会の一員として今回の再検討会議に参加するムハメド・シェーカー元駐英大使は、1985年の再検討会議では議長を務めた核問題専門家。「中東を大量破壊兵器のない地域にする」との再確認を今回の再検討会議に期待する。

 それは、イスラエルが核兵器を放棄しNPTに加盟すること、イランは核兵器開発をせずにNPTを順守することを意味する。

 前回(2005年)の再検討会議が最終文書も採択できずに失敗したのは、ブッシュ米政権の姿勢が大きな要因だった。米国は核軍縮に冷淡だっただけでなく、イランが主張する平和利用の権利の制限を主張した。一方でエジプトは、イスラエルの核保有を議題に上げるよう迫った。こうした強硬姿勢が結局、最終合意を妨げた。

 しかし昨年就任したオバマ米大統領は「核兵器のない世界」を目指すと明言。核超大国の姿勢は変わりつつある。しかもオバマ氏は6月にエジプトを訪れカイロ大で講演。隣国のイスラエルには訪問しなかったことから、イスラエル寄り一辺倒だった米国の中東政策の微妙な変化を読み取る向きもある。

 エジプト政府は今回の再検討会議でも、中東非核化を討議する国際会議の開催を求めるなど中東問題を正面から取り上げる構えだ。

 その問題解決の方策を提言するのはカイロ大の政治学教授も務めるモスタファ・エルィ・サイフ諮問評議会議員。「持つ国と持たざる国とに分けたNPTの『二重基準』を見直すべきだ」と説く。見直しとは、保有国もNPT未加盟国も、そのほかの国と同様に、国際原子力機関(IAEA)の厳格な査察を受け入れること。

 一方、イスラエル・エルサレムにあるヘブライ大政治学教授のシュロモ・アロンソン氏は「イランこそ中東の問題児」と主張する。ただそれは単なる非難ではなく「国際社会がイラン問題を解決すれば、次はイスラエル自身が核兵器を放棄する可能性も見えてくる」との期待も込める。

 そのイスラエルは今回、加盟国が集まる再検討会議にオブザーバー参加する見通し。中東が核と決別できるか、命運を懸けた会議が間もなく幕を開ける。=第10章おわり

(2010年5月2日朝刊掲載)

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