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連載・特集

核兵器はなくせる 第11章 2010NPT <上> 合意の背景

■記者 金崎由美

中東めぐる調整奏功 米、成功こだわり譲歩

 5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が、核軍縮・不拡散に向けた64の行動計画を盛り込んだ最終文書を採択し閉幕した。米ニューヨークの国連本部で4週間にわたった議論はしかし、一歩間違えれば5年前と同様に決裂する懸念もあった。世界的な核軍縮機運を何とか維持することができた今回の会議の経過を、その舞台裏も含めて振り返る。

 閉幕まであと1日半となった5月27日の昼下がり。ウィーン国際機関日本政府代表部の小溝泰義大使は依然、厳しい面持ちだった。「中東決議さえ解決すれば…」。カバクトゥラン議長(フィリピン)が最終文書案を提示すると約束した午後5時まで、あと数時間に迫っていた。

 NPTの無期限延長を決めた1995年の再検討会議が採択した中東決議。中東の非核化をうたう内容は、核兵器保有が確実視されるイスラエルに、その核を放棄させることを意味する。だが15年間、進展はない。中東決議をどう扱い、アラブ諸国が納得するか否かが、今回会議の最大の懸案となっていた。

 その日夕。配布された議長の最終文書案には、中東非核化を話し合う国際会議の2012年開催と、イスラエルを名指ししてNPT加盟を求めることが盛り込まれた。それは21日の会合に示された文案に基づき、アラブ諸国と米国が折り合ったことを意味した。

 中東問題を扱った第2小委員会のケリー議長(アイルランド)が、アラブ連盟を主導し非同盟諸国の議長国でもあるエジプトと、イスラエルを擁護する米国との間で調整を続けた結果でもあった。

 「ケリー議長によるバランスの取れた21日の提案が流れを変えた」とアラブ外交筋は指摘する。「イスラエル」の文言をすべて削除したい米国と、さらに厳しい言及を求めるアラブ側との交渉は水面下で激しく続いたが、結局、最終局面でそれぞれが折れた。

 それでも懸念は残っていた。自国でのウラン濃縮にこだわり、米国などから激しく非難されていたイランの態度だ。中東問題に限らずさまざまな場面で「議論が尽くされていない」との発言を続け、「時間切れの決裂を狙っている」と周囲を不安がらせていた。

 そんなイランを懸命に説得したのがエジプト。カバクトゥラン議長周辺は「エジプトはアラブのリーダーの面目にかけて中東決議で成果を求めた」と説明する。日本外交筋も「イランは最終的に非同盟諸国内部で孤立した」と分析する。

 会議の成功にこだわる米国が、口頭ではイランに非難を浴びせながらも、最終文書にイランを名指ししての批判を盛り込まないことで了解したことも、最終合意につながる一因となった。

 半面、すべての議題をまとめてテーブルに載せて交渉する「グランドバーゲン」方式ゆえに、駆け引きの末に削除されたり弱められたりした項目も少なくない。そんな「割を食った」代表例が、核軍縮分野だった。

(2010年6月3日朝刊掲載)

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