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連載・特集

核兵器はなくせる 第11章 2010NPT <下> 被爆国の存在感

■記者 金崎由美

「傘」依存 歯切れ悪く 軍縮協議では主導も

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が中盤を迎えた5月14日、被爆者の木戸季市さん(70)=岐阜市=は各国代表でごった返す議場に向かい、外務省の阿部信泰参与を呼び止めた。

 「まず被爆国が『核の傘から出る』と言ってくださいよ」。その3日前、日本政府が主導して会議に提出した軍縮教育推進の共同声明を評価した上で、木戸さんはそう語り掛けた。自国の安全を米国の核抑止力に頼る現状への不満がにじむ。

 「軍縮教育も核軍縮も同じくらい大事ですから」。阿部参与はそう答えるにとどめた。

 64項目の行動計画を柱とする最終文書を採択した今回の再検討会議。閉幕直後の28日夕の記者会見で須田明夫軍縮大使は「われわれの軍縮提案のほとんどが最終文書に反映された」と胸を張った。

 その提案とはオーストラリアとともに会議に提出した16項目だ。両国政府の支援を受けた核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)が昨年まとめた最終報告を下敷きに、核兵器の役割低減や核兵器能力の透明性確保を求めた。

 しかし、ピースボートの川崎哲共同代表は「ICNNDの報告をさらに薄めた内容。被爆国ならではの提案とは言いにくく、無難な中身だったからこそ批判されなかった」。

 政府を代表して会議で演説したのは福山哲郎外務副大臣で、外務省内部にも「首相が演説すれば、核兵器廃絶の先頭に立つ被爆国の姿勢をより強く訴えることができたのだが」と残念がる声がある。外相も出席せず、政権交代した被爆国のリーダーが、「変革」や「政治主導」をアピールする機会を自ら放棄した形となった。

 ただ、存在感がゼロだったわけではない。

 閉幕前日の27日夕。配布された最終文書案に「2014年に核軍縮の取り組みを報告し、2015年の再検討会議で次のステップを議論する」との一文が加わっていた。それまでの交渉過程で消えた「核兵器廃絶への行程を検討する国際会議の14年開催」に代わり、日本が押し込んだという。

 国連外交筋は「日本が核兵器保有五大国を説得した。最終文書の採択につながる成果だ」と評価する。

 それでも、核兵器の非合法性に言及したスイス、非人道性を糾弾したノルウェーやオーストリアの主張に比べれば、歯切れがいいとはいえない。非同盟諸国の一部が唱えた25年までの核兵器廃絶など期限付き目標にも日本は同調しなかった。

 本来なら被爆国こそが「核の傘」も含めて核兵器を真っ向から否定し、その廃絶をより強く主張すべきではなかったか。

(2010年6月5日朝刊掲載)

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