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連載・特集

核兵器はなくせる 第12章 扉を開くとき <7>

■記者 「核兵器はなくせる」取材班

人類の責務 果たそう

 「安らかに眠って下(くだ)さい 過ちは 繰返(くりかえ)しませぬから」

 広島市中区、平和記念公園の原爆慰霊碑に刻まれた21文字が訴えかける。原爆死没者26万3945人の名簿が碑文の下に納まる。

 原爆投下から65年近くの歳月が流れた。だが惨状の記憶は現代に生きる私たちの胸に刻まれ、肉親を奪われた悲嘆とともに、この広島の地に深く染みついている。その記憶こそが、過ちを繰り返さないよう誓った原点。核兵器を廃絶できなければ、人類はこの犠牲から何も学ばなかったことになってしまう。

 被爆者は老いた。平均年齢は75歳を超す。2009年3月末現在、被爆者健康手帳の所持者は全国で23万5569人。最多だった1980年に比べ約14万人少なくなった。

 それでも二つの広島県被団協には09年度、手帳申請や原爆症認定などの相談が合わせて1456件も寄せられた。

 「ヒロシマは終わっていない」。呉市の被爆2世永原富明さん(63)は訴える。父親は00年に82歳で亡くなるまで自分が被爆者だと告げなかった。半世紀以上も癒やされることがなかった父の心の傷を永原さんは思う。

 東広島市の被爆者高山等さん(79)は「原爆を落とした米国は本当に憎い。だが、それよりも、自分たちの痛みが二度と繰り返されないよう、できることをしたかった」。被爆証言の英訳に取り組んだ経緯をそう振り返る。

 そんな被爆者の心情に触れるたび、私たちは、核兵器廃絶は人類の責務だと痛感する。

 原爆投下国のリーダー、オバマ米大統領は昨年4月、プラハで演説し「核兵器を使用した唯一の国として行動する道義的責任がある」と廃絶への努力を言明した。ただ「私が生きている間には(廃絶)できないだろう」「核兵器が存在する限り、敵を抑止する核戦力を維持する」とも付け加えた。

 即時廃絶はすこぶる困難だという人は少なくない。国際政治の現実は確かにそうだろう。科学の発展がもたらした技術や知識を簡単に消し去ることもできない。

 だが、戦争の手段を準備するのが政治だろうか。人間を不幸に導くのが科学だろうか。人類を何度も滅亡させるだけの核兵器が存在するこの現状を、いったい地球市民の誰が望んだというのか。

 残念ながら私たちは取材を通じ、被爆国日本が核兵器廃絶へのリーダーシップを期待されながら、それだけの評価を得ていない現実を見せつけられた。

 しかし同時に私たちは、保有国と非保有国を問わず、核兵器を否定する市民意識の確かな広がりも感じた。そうした機運を受け、国際政治の現場でも、非人道的な核兵器を全面禁止する条約案が大いに語られ始めている。

 いま一度、ヒロシマから訴える。核兵器はなくせる。なくさなければならない。

 連載「核兵器はなくせる」はこれで終わります。吉原圭介、金崎由美、林淳一郎、増田咲子、岡田浩平、江種則貴、田城明が担当しました。

(2010年6月21日朝刊掲載)

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